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名門貴族の変嬢 作者:双葉小鳥

第一章 名門貴族の変嬢

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第八話 侍女と執事と料理長+下っ端

 静かな室内。
 この部屋の主であるお嬢様は、ベッドの上。
 昇ったばかりの陽が室内を優しく照らす。
 お嬢様の顔色はひどく悪くて。
 時折小さく悲鳴のようなものと、小さなうめき声が上げて身をよじったり、縮こまったり。
 お嬢様は……ひどく、くるしそう…………。
 私は、苦しそうなお嬢様に早く目を覚ましてほしくて、お嬢様の手を両手で包んだ。
「お嬢様…………」
 呼びかけてふと、昔を思い出した。

 あれは、私がお嬢様に拾っていただいて、遊び相手として傍に居たころ。
 私はお嬢様を親しみを込めて『リース』と、呼んでた。
 でも。
 今はもう、遊び相手じゃない。
 私は…………お嬢様の侍女。
 至らないところは多々あると分かってる。
 だからこそ、私は。
 遊び相手だったころの思い出の呼び名を止めて、親しみを込めて『リース』と呼ぶ代わりに『お嬢様』と呼ぶことにしたんだもの。
 私がそう決めたとき。
 お嬢様は『寂しいわ』と困った顔で笑ってた。
 あの顔は忘れない。 
 でも、私は侍女として……お嬢様に必要とされたい。
 そう思ってる。
 だけど。
 お嬢様が起きてくれないと、私はお嬢様の侍女になれない。
 じゃぁ。
 今の私は何なの?
 遊び相手?
 でも、お嬢様はもう。
 そんなものが必要な年じゃない。
 だったら今の私は、ただの【ミリー】。
 今の年頃のお嬢様に必要なものは、話し相手。 
 じゃぁ私。
 今は。
 今だけは…………お嬢様の話し相手を、勝手に務めさせてもらおうかな……。
「りぃ……す……」
 少し緊張したけど、昔みたいに読んでみた。
 でも、昔みたいに素直に呼べない。
 困っちゃったな……。
 …………久しぶりだから、しょうがない。よ、ね……?
 だから気を取り直しってっと!
「リース。起きて? 朝になっちゃったよ? もう、四日も寝たままじゃない。いい加減起きて、私とお茶しようよ? 今度はね、紅茶にレモンを入れてみようと思うんだ。料理長にたのんで、紅茶に合ったお菓子を焼いてもらうから…………」
 そう、リースの手を握って話しかけるけど……反応は、無くて。
 私の声が。
 言葉が。
 空しく、室内に響くだけ…………。 
「だから……。だからね、早く……起きてよ。それで、『おはよう』っていって、笑ってよ…………。ねぇ……リース………………。さみしいよ……」
 勝手に感情を表す言葉が零れて。
 それと同時に涙が頬を滑って、スカートに落ちた。
 一度こぼれたそれは、次から次に落ちてきて、止まらなくて。
 目をこすって止めようとしたけど、リースの手を離すのが怖くて、それが出来なかった。 
 ねぇ、リース。
 私、リースが居なくなっちゃいそうで、こわいよ……。
 怖いんだ。
 だから早く、目をさまして…………。


 *** 

 屋敷を巡回しつつ、お嬢様の部屋に来たところ。
 ミリーの小さな嗚咽がお嬢様の部屋から聞こえ始めた。
 お嬢様の様子は気になるが、付きっきりで寝てもいない。
 食事をしようとしないミリーの様子も気になっていた。
 だからこそ。
 これを注意しようと考え、お嬢様の部屋を訪れたのだ。
 だが。
 今はやめておこう。
 そう考えて踵を返し、調理場に向かった。
 調理場では、料理長が椅子に座り、親指の爪を噛んでいた。
「お、長。し、したく、で、でで出来ましたっっ!」
 激しくどもりつつそう叫んだのは、料理長が連れてきた下っ端たちの内の一人。
「おう。わかった」
 料理長はそう返答し、席を立つ。
 と、ここで俺に気づいたようだ。
「なんだ。テノールじゃねぇか…………姫さん。どうだ……?」
 目の下にクマを作っているせいで、さらに迫力が増している。
 この様子だと、侵入者を見つけようものなら血祭だろう。
 気をつけねば……。
 そう頭に刻み、料理長に答えを返す。
「……激しくうなされいる」
「そうか…………。だいたい、お前。本当にアレ、睡眠薬だったんだろうな?」
「あぁ。お嬢様には、少し眠くなる程度に作っておいた」
「………………常人だと、二度と目覚めねぇってやつだろう?」
「以前渡しただろう?」
「…………姫さん、一時間もせずに起きたな……」
「当たり前だ。俺が面倒見ているんだ。薬で死なれてはかなわん」
「ふっ……。通りで。あの姫さん。なんの警戒もなくアタシが作った料理を食べるわけだ」
「それは元からだ」
「……その口ぶりだと、お前。殺しかけただろう?」
「…………………さぁな……」
 【黙秘】とさせてもらおう。

 ***
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