表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名門貴族の変嬢  作者: 双葉小鳥
第一章 名門貴族の変嬢
8/104

第八話 侍女と執事と料理長+下っ端

 静かな室内。

 この部屋の主であるお嬢様は、ベッドの上。

 昇ったばかりの陽が室内を優しく照らす。

 お嬢様の顔色はひどく悪くて。

 時折小さく悲鳴のようなものと、小さなうめき声が上げて身をよじったり、縮こまったり。

 お嬢様は……ひどく、くるしそう…………。

 私は、苦しそうなお嬢様に早く目を覚ましてほしくて、お嬢様の手を両手で包んだ。

「お嬢様…………」

 呼びかけてふと、昔を思い出した。

 

 あれは、私がお嬢様に拾っていただいて、遊び相手として傍に居たころ。

 私はお嬢様を親しみを込めて『リース』と、呼んでた。

 でも。

 今はもう、遊び相手じゃない。

 私は…………お嬢様の侍女。

 至らないところは多々あると分かってる。

 だからこそ、私は。

 遊び相手だったころの思い出の呼び名を止めて、親しみを込めて『リース』と呼ぶ代わりに『お嬢様』と呼ぶことにしたんだもの。

 私がそう決めたとき。

 お嬢様は『寂しいわ』と困った顔で笑ってた。

 あの顔は忘れない。 

 でも、私は侍女として……お嬢様に必要とされたい。

 そう思ってる。

 だけど。

 お嬢様が起きてくれないと、私はお嬢様の侍女になれない。

 じゃぁ。

 今の私は何なの?

 遊び相手?

 でも、お嬢様はもう。

 そんなものが必要な年じゃない。

 だったら今の私は、ただの【ミリー】。

 今の年頃のお嬢様に必要なものは、話し相手。 

 じゃぁ私。

 今は。

 今だけは…………お嬢様の話し相手を、勝手に務めさせてもらおうかな……。

「りぃ……す……」

 少し緊張したけど、昔みたいに読んでみた。

 でも、昔みたいに素直に呼べない。

 困っちゃったな……。

 …………久しぶりだから、しょうがない。よ、ね……?

 だから気を取り直しってっと!

「リース。起きて? 朝になっちゃったよ? もう、四日も寝たままじゃない。いい加減起きて、私とお茶しようよ? 今度はね、紅茶にレモンを入れてみようと思うんだ。料理長にたのんで、紅茶に合ったお菓子を焼いてもらうから…………」

 そう、リースの手を握って話しかけるけど……反応は、無くて。

 私の声が。

 言葉が。

 空しく、室内に響くだけ…………。 

「だから……。だからね、早く……起きてよ。それで、『おはよう』っていって、笑ってよ…………。ねぇ……リース………………。さみしいよ……」

 勝手に感情を表す言葉が零れて。

 それと同時に涙が頬を滑って、スカートに落ちた。

 一度こぼれたそれは、次から次に落ちてきて、止まらなくて。

 目をこすって止めようとしたけど、リースの手を離すのが怖くて、それが出来なかった。 

 ねぇ、リース。

 私、リースが居なくなっちゃいそうで、こわいよ……。

 怖いんだ。

 だから早く、目をさまして…………。


 

 *** 


 屋敷を巡回しつつ、お嬢様の部屋に来たところ。

 ミリーの小さな嗚咽がお嬢様の部屋から聞こえ始めた。

 お嬢様の様子は気になるが、付きっきりで寝てもいない。

 食事をしようとしないミリーの様子も気になっていた。

 だからこそ。

 これを注意しようと考え、お嬢様の部屋を訪れたのだ。

 だが。

 今はやめておこう。

 そう考えて踵を返し、調理場に向かった。

 調理場では、料理長が椅子に座り、親指の爪を噛んでいた。

「お、長。し、したく、で、でで出来ましたっっ!」

 激しくどもりつつそう叫んだのは、料理長が連れてきた下っ端たちの内の一人。

「おう。わかった」

 料理長はそう返答し、席を立つ。

 と、ここで俺に気づいたようだ。

「なんだ。テノールじゃねぇか…………姫さん。どうだ……?」

 目の下にクマを作っているせいで、さらに迫力が増している。

 この様子だと、侵入者を見つけようものなら血祭だろう。

 気をつけねば……。

 そう頭に刻み、料理長に答えを返す。

「……激しくうなされいる」

「そうか…………。だいたい、お前。本当にアレ、睡眠薬だったんだろうな?」

「あぁ。お嬢様には、少し眠くなる程度に作っておいた」

「………………常人だと、二度と目覚めねぇってやつだろう?」

「以前渡しただろう?」

「…………姫さん、一時間もせずに起きたな……」

「当たり前だ。俺が面倒見ているんだ。薬で死なれてはかなわん」

「ふっ……。通りで。あの姫さん。なんの警戒もなくアタシが作った料理を食べるわけだ」

「それは元からだ」

「……その口ぶりだと、お前。殺しかけただろう?」

「…………………さぁな……」

 【黙秘】とさせてもらおう。

 

 ***


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ