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―――時は少し遡り、リスティナの私室。
そこには侵入者と、それを排除するべく屋敷の実力者たちが集結していた。
後からやってきた料理長も侵入者を見つめ、ため息を一つ。
「…………お前は何をしている?」
「嗚呼。姉さん! 会いたかったっ……! 探したんだよ。居るって言ってた国に行ってみたら居なくて、心配したんだよ? それより、その物騒な皮脱いでよ。せっかく美人なのにもったいないよっ!!」
「黙れ。質問に答えろ愚弟」
「あぁあ……姉さんの声――――良い……」
恍惚とした表情を見せ、自身の肩を掻き抱いた青年。
それをただただ。
どうしたモノかと見つめる料理長の背後ろのテノールたち。
「「「「「…………」」」」」
否。
ただただドン引きしていた……。
そして目の前の青年に『姉さん』と、呼びかけられていた彼女の背を無言で見つめている。
「………………」
ついでに、そう呼ばれ。
恍惚とした表情で熱い眼差しを向けられている彼女ですら、テノールたちと同様――否。それ以上に引きまくっていた。
そう。
出来うることならばこの場から逃げ出したいとすら、考えてしまうほどに……。
「? 姉さん? ねぇ? もっと……もっと、僕を罵って…………?」
「……………………」
「姉さん? 姉さん。ねえさん……ねぇさん…………!」
「「「「「「………………」」」」」」
これに、青年を覗くこの場の人間が口を閉ざし。
料理長は頬を引き攣らせ。
目の前の現実を受け入れることが出来ず。
一瞬のうちに術を展開し、発動させ、青年を青年の国に転送した。
静寂に包まれた室内。
そこに棒を飲んだように直立不動となった使用人たち。
彼らは突如として現れた青年により。
底知れぬ恐怖を味わったのだった……。
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さて。
もう結構時間がたったのですが、誰一人として口を開きません。
本当に、どうしてしまったのかしら……?
でも、このままだと料理長たちが休めません。
それは由々しきこと。
……と、言うより。
もう私が眠いの…………。
皆のおかげで安心したせいね。
まぁ。
あの男がどうなったのかを聞くまでは、本当に安心できませんけれど……。
今の所は脅威は去ったということよね。
……ただ…………。
ゼシオ以外の三人の様子が気になるのだけれど、離しにくい事なのかもしれないわね。
少し時間をおいて、考えがまとまってからでも遅くは無いと思うの。
そう、提案してみようかしら……?
「ねぇ。テノール、ルシオ、料理長。何か話しにくいことなのでしょう? 無理しなくていいわ。話せるようになって話してくれて」
「…………ひめ、さん……。すまねぇな、気ぃ使わせちまって……」
と、困った顔の料理長。
何処か困惑したようにも見えていたテノールとルシオ。
彼らは私の言葉に若干ではありますが、ホッと安堵の表情を浮かべました……。
………………よほど、話にくい事なのね……。
「それじゃぁ私、もう一度眠るわ。おやすみなさい」
「あ、あぁ……。おやすみ、姫さん」
「おやすみなさいませ、お嬢様」
「「…………」」
こうして。
リビングで四人と別れ、自室に戻りました。
が。
何故か、私のベットにあの男が腰かけているではありませんか。
え?
あれ?
テノールたちが処理したのではなかったの……?
もしかして、幻覚?
私、もしかして幻覚を見せられているのかしら?
もしそうだとしたら悪趣味ね…………。
……………………。
…………………………。
……………………………………。
しばし無言で、ドアノブに手を掛けたまま扉を開け放ち。
私のベットに座っている男を見つめあい。
――――男が立ち上がった。
「ッ! いやぁぁああああああああああ!!」
――バタァンッッ!
荒々しく扉を閉め。
とっさにリビングを目指し、駆けだした。
え?
淑女としてのプライド?
成人している人間としてのプライド?
そんなもの、命には代えられないわ!!
「テノールッ! 料理長っ! ルシオ、ぜしおぉぉぉ! だれか、誰かぁぁぁああああ!! ぅわあぁぁぁあああん!!」
思わず子供の様に泣き叫びながら廊下を疾走……。
……なりふりなど、なりふりなどかまっていられないのよっ!!
「姫さん?!」
「お嬢様?!」
突然並んで現れた料理長とテノール。
私は恐怖のあまり二人にぶつかるようにして、彼らの片方の腕(料理長は右腕、テノールは左腕)を両腕に抱きしめた。
「り、りょうり、ちょ。ての、る、ぅ、ぅうううっぅぅ……っ…………!」
「ど、どどどうしたんだ?! 姫さん!」
「お嬢様。落ち着いて下さい。何があったのですか?」
「……ひっ……ひっく……。ぅ、ぅうぅぅ……お、おとこ、男が……、さ、さっきの……男が、居たの…………!」
「「?!」」
二人が驚く気配を感じ。
私達の居る場所に、あっという間にやってきたルシオとゼシオが武器を構える気配を、背後で感じた……。
そして。
彼らの少し先に、あの男の気配も…………。
弟 ハ 真正 ノ 変態 二 進化 シテ イタ。
姉 ハ 現実 ヲ 拒否 シタ。




