【Happyend】
「あ~えっと。姫さん? ここは危ねぇから、下がりやしょーや」
いつも通りに声をかけたら……すっと喉元に槍の切っ先を向けられた。
…………あっれ~?
おっかしいな……殺気しか感じねぇんだけど…………?
「……お黙りなさい」
「はい。すんません……!」
ひ、姫さんなのに怖ぇえええ!!
え?
ねぇ、何があったんすか?
え?
え?!
「そう。それでいいのよ……」
黙った俺に対してか、満足げに微笑んだ姫さん。
俺はその様と、いつもの姫さんらしくない態度が嫌に引っかかった。
なぜって?
そりゃ、姫さんは基本。
俺達に生粋の貴族みてぇな態度とらねぇからなぁ……。
まぁ。
俺よりべったりなおっかないの達は初めから気づいてたみたいだけどな……。
つーか、どうすんの?
これ。
俺、ちょっとでも動けは姫さんに殺られるんだけど……。
なんて思ったら姫さんが槍を引いてくれなさった。
良かった。
マジで殺られるかと思った……。
ねぇ、誰か。
誰でも良いからこの状況を説明してくれやせんかねぇ……?
俺、頭の回転遅っせぇから、ついてけてねぇんだわ……。
ははは……。
「私は国が降伏を受け入れようとも、私の家族に傷を負わせたことを許さない。さぁ、消されたくなくば国へお戻りなさい。そして伝えなさい。『自分自身の行いを悔め』と……」
凛とした冷たい声音と冷たい表情。
それは冷酷に微笑んだ……。
えぇっと。
見た目姫さんな貴女様はどちらさまでしょーか……?
なんて現実から目をそらしてたら殺気だった姫さんが槍を構えて振り下ろした。
そしてその風圧か何かで竜巻が……。
…………って、あれ?
姫さんって、強力な魔道具って使えなかったんじゃ……。
なんて思っておっかないのに目を向けたら、おっかないのも驚愕を示していたんだ。
不気味過ぎるな。
なんて率直な感想が頭に沸いた。
そんな時。
姫さん(?)がスッと人形の姿に変わって、黒ともどす黒い紫とも言えないようなバチバチ言ってんのの中に入ってったんだ。
これを見たおっかないのが顔色を変えたさ。
でもって二人そろって消えて失せたんだ。
それにすこーし安心してたら、攻めてきた隣国? の、方から火の手が上がったようで、もうもうと煙が上がっていた。
なんだそれ……。
てことで確認に行った。
いやだなぁ。
遊び物がなくなったとか、そんなんじゃないぞ?
ただ。
ストレス発散するのにちょうど良かったのがなくなったんだ。
……てなわけで敵国な訳でなんだけどさ…………うん。
本体で一騎当千する姫さんって、なに?
ねぇ。
なんで一人で王城に攻め入ってんの?
てか、あなた。
魔力使ってねぇですよね……?
なのにバッサバッサ。
鉄の鎧だろうが大理石の壁だろうがなんだろうがを、スッパスッパやってるのっていったい…………?
……ねぇ、姫さん。
貴女がサクサクバキバキやってるソレ、クッキーじゃねぇですよ?
…………頼んますから、後生ですから。
……返り血浴びて、一層笑みを深めんでください…………。
怖いんで……。
ほら、見てくだせぇよ。
おっかないのの表情を。
青ざめてますぜ…………。
……俺。
たった今、分かったわ。
一番おっかねぇの、姫さんだわ…………。
…………まぁ、しばらくしたらいつもの姫さんに戻ってくれなさった。
良かったってもんだ。
――――――――
―――――
こうしてリスティナ・ファスティは国を手に入れた。
彼女が意識を取り戻した時。
戦は終わっていた。
そしてその後。
彼女は手に入れた国を公国と改め祖国の属国で、同盟国。
つまりは付属品とした。
リスティナ・ファスティは公国を納める大公となり。
愛する家族。
守るべき大切な者たちと共に余生を楽しんだ。
彼女の死後。
公国は彼女の愛する祖国と同じ名を授かり、ともに栄えた。
彼女が愛した国の名は【マグディリア王国】。
―――――――――――
―――――――
【リスティナ・ファスティ】またの名を【マグディリアの英雄】。
その名は歴史に深く刻まれ。
マグディリアの民の心に生き続けている……。
【Happy end】




