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名門貴族の変嬢  作者: 双葉小鳥
最終章 変嬢の行く末
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第六話 忠告

 さて。

 私の祖国を蹂躙しようとしている不届きものどもへ、忠告しなくては、なりませんわね……。

 

「ごきげんよう。皆さん、これ以上の進軍は辞めて、お引き取りくださいませ」


 にっこりと。

 出来るだけことを荒立てないよう言うと、正面の彼らは激しく困惑したわ。

 でも、それもすぐに収まってしまい。

 各々手にしていた武器を持ち直したの……。

 困ったわ……。

 私。

 出来れば戦いたくなど、無いのです。

 だからここで引いていただければと。

 そしてそれから穏便にお話をと考えたかったのですが…………無理のようです。

 …………悲しいわ……。

 だって、私が持っている武器はこの槍のみ。

 それでいて。

 この槍はお姉――じゃなくて、サラ様同様に危険なのです。

 何故なら、槍が教えてくれた(?)内容の中に、『私が明確に殺意を持ち。槍に魔力を込めれば、あっという間に全てを火の海に変えられる』と言うものがありました。

 ですが、今の私は殺意なんて物騒なもの、みじんもありません。

 あるはずがないのです。

 ちなみに、この槍は私の考えていることを私の内にある魔力から読み取り。

 それを実現するそうです。

 と言うことはです。

 私が面白半分、好奇心半分でこの戦場を焼け野原に……なんて考えようものなら――――


「ひっ、火がっ……!!」

「ど、どこから?!」

「ぎゃあぁぁああああああ!!」



 悲鳴のような断末魔。

 続くものもまた、断末魔でした……。


 ………………………………。


 ……………………。


 ……どうしましょう…………。

 困りました。

 だ、だって!

 目の前で突然黒い劫火が発生したのですよ?!

 人が……人が、あっという間に焼失したのです……!

 信じられません……。

 …………今も黒い劫火はふくらみ。

 戦場を焼き払わんばかりの勢いで敵がいる場に広がっております。


 ……これでわかりました。

 変な事は考えないようにします。

 それが一番だと分かりました。

 なんて私が納得していると、黒い劫火は敵の大勢いる場に行く前に、少しづつ鎮火しました……。

 よかった。

 あまり犠牲を出さずに鎮火してくれて……。

 もう。

 勝手に解釈するみたいですね、この槍は。

 ……あら?

 何かこちらへ近づいて……?

 あれは……弓? 

 それと、槍と剣……?

 …………どうして無数のそれらが私の方へ飛んできているの?

 変よ。

 だって、それらを持った人間がいないの。

 武器だけが私の方を目がけて、飛んできているのです。

 ホラーチックだわ……。

 それにしても、一直線に向かってきているのね。

 このままだと私。

 ずたずたなのかしら?

 それは困るわ。

 だって、この体はおそらく本体。

 ……と言うことは。

 ……………………あ、このままじゃ死んじゃう。

 

 私の頭がそう結論を出した時。

 それらはもう。

 回避不可能とあきらめざるを得ない距離。 

 あ。

 私、死んじゃった。

 


 そう思ったと同時に響いた無数の金属音と、打撃音。

 

 そして。

 見慣れた多くの後ろ姿。



「ご無事ですが。お嬢様」


 背を向けたままの大勢の中から、軽くこちらを振り向いて微笑んだその姿は――――


「てのー……る……? みんな。どぅ、して……?」

「ここだろうと思ったんだ。怪我は……してねぇな。よし」


 ぺたぺたと私の頬をさわり。

 槍をもっている方の手を見て、持っていない方の手を握って手のひらと甲を見て。

 料理長は安堵の笑みを浮かべ、そう言ったわ。

 双子はと言うと、正面を向いたままです。

 

「マリア、メイサ。お嬢様のお傍に」

「「はい」」


 そう返事が聞こえて、大勢の中からマリアとメイサが私の方へやってきた。

 

「お嬢様! ご無事で、ご無事でなによりです」

「本当に、心配しました」

「ごめんなさい。マリア、メイサ。家族が、心配だったの……」

「お嬢様……」

「姫様……。大丈夫です。安心してくださいませ。私どもがついております」

「そうですよ。お嬢様! 私たち皆が力を合わせ、本気を出せばこのような大陸、あっという間に掌握できます!」


 無邪気に笑って断言したマリアの言葉に、軽く恐怖を覚えたのは……うん。はい。気のせいと言うことにしておきます。


「ありがとう。マリア、メイサ。元気が出たわ」

「さて、お嬢様。ここからは俺達が引き受けます」

「え? あら、大丈夫よ」

「いいえ。さっさと終わらせて帰りませんとお昼を過ぎていますので、おやつの時間に間に合いません」

「あぁ、そりゃいけねぇや。今日は姫さんの好物。ドライフルーツを入れたマフィンを焼こうと決めてたんだからなぁ」

「まぁ! 料理長、それは本当なの?」

「あぁ。材料はもう買ってきてるからな。作るだけだ」

「嬉しい! じゃぁ、早く終らせて、帰りましょう」 


 そう言うと、皆は一斉に返事を返してくれて、消えてしましました。

 ……どこに行ったのかしら?

 まぁ良いわ。 

 早く終わらせて、帰らなきゃ!


 …………………………。

 

 ……………あ……。

 

 ついつい嬉しくて、ここがどこだかわからなくなりかけましたけど、大丈夫です。

 ちゃんとわかっていますわ。

 戦場です。

 戦場なのです……。

 でも大丈夫。

 ほら。

 あちらこちらで聞こえる断末魔と共に、真っ赤な真っ赤な花が開いているでしょう?

 ……ところで。

 殲滅、なんてしなくていいのよ? 

 敵を後退させてくれればそれで……あら、私。ちゃんとそのように伝えたかしら?

 …………伝えていないような気が……。

 


「ひゃあはっはっはっ! おらおら逃げ惑え雑魚どもぉっ!!」

「ふふふ。さぁ、これはどうでしょうねぇ……」

「うは! これこれぇ!」

「血の匂いだ……うひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

「戦いってのは、やっぱこうじゃなくきゃなぁ!」

「つーか、雑っっ魚っ! 弱すぎて話にもならねぇってぇのっ」



 なんて物騒な雄叫びをはじめ、凶悪な集団が出来上がっています。

 中には冷静な者もいるようですが、一人だけです。

 一号だけなの……。

 どうして一号だけしか落ち着いていないの? 

 いつも皆顔は怖いけど、そんな凶悪な感じじゃないじゃない? 

 『ほんわか』――は違うけど、その……『優しい』感じ? も、なんか違うような気もするけけれど!

 と、とにかく! 

 凶悪な感じなんてみじんもないじゃない!!

 どうしちゃったの?! 

 テノールたちはいつも通りな感じだし、双子の方だってそうよ。

 ……いや、まぁ。

 あの三人が率いる場所に近づけるかって言われたら、私は全力で拒否するけれど……。

 

「やっぱり、厨房の番号たちは鬱憤が溜まってたみたいですね」

「本当。凶悪さに磨きがかかっているわ」


 ……えっと。

 マリア、メイサ。

 なんでもない事のように、しみじみと解説しないでちょうだい。

 私がどうしたら良いのか分からなくなるから……。

料理長の部下はまとめて言うと、『厨房の番号』。

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