第十一話 朝
ちゅんちゅん、と鳥がさえずる声。
淡くて明るい光を感じ、ふっと目を開けてみました。
「やぁ。お目覚めかな? 可憐な眠り姫。今日の僕はその菫の瞳に誰より早く映れることが出来て光栄だよ。嗚呼……。君の瞳に映る僕は、なんと美しいのだろう……。ねぇ、そう思わないかい?」
絵に書いたような『王子様』が居ました。
…………あぁ。
自分に酔いしれている自己陶酔症で、重度のナルシストでしたね。
所詮変態で変人です。
「嗚呼。そうか、僕があまりに美しくて。いや、美しすぎて声も出ないんだね! 良いよ。さぁ、たんと見惚れておくれ」
………………さて。
今現在の私なのですが、薄い寝間着です。
私の肩は布ではなく、細い紐で吊ってあるような形の淡い紫のネグリジェです。
ちなみに、これは私が選んだものではありません。
料理長チョイスですわ……。
さすがに『露出が過ぎる』と言ったのですが、『可愛いからコレ』って言って聞いてくれなかったの……。
テノールだって加勢してくれたわ。
でも、料理長が『爺は黙ってろ』って……。
もちろんテノールの額に青筋が浮かんだわ。
それからはもう口論。
最後は『もうお好きにどうぞ』ってテノールが不機嫌になって席をはずしちゃって……。
『石頭のくそ爺め。姫さんをいくつだと思ってやがる。もう少し流行に乗っからせてやりてぇとか、思わねぇのかねぇ?』
だそうよ?
……私、流行とか疎くて良くわからないのだけれど。
料理長の優しさは十分に伝わったわ。
だからそれを着ているの。
嬉しそうにしている料理長を見るのは、嬉しいわ。
まぁ。
そのせいで私のネグリジェは露出が……。
って。
そんなことより、今です。
今。
そう、私は薄いネグリジェ。
しかも肩が激しく露出。
その上、寝起き。
…………つまり、つまりですよ?
こんな(寝間着)姿で赤の他人。
しかも男性と会うなど、とてもとても破廉恥なことです。
ちなみにこんなことが祖国で起こっていたとしたら、不法侵入して来た男性から莫大な慰謝料。
もしくはその命を奪うか、一生の責任を取ってもらわねばならぬほどの事。
そして私。
つまり女性の立場から言えば、嫁ぎ先がすべて消え。
『不法侵入してきた男のもとに嫁がねばならない』という、とても屈辱的なことになるのです。
それほどに破廉恥極まりないことで。
普通のネグリジェであれば、私が来ている物ほど露出が無いのです。
なのに、私の着ているものは……っ――――。
「きゃぁぁあああああ!!」
私は布団をぎゅっと握りしめ。
顔に熱が集中するのを感じ、あまりの事に叫ばずにはいられませんでした……。
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―――――――
「あぁ。今日の姫さん昼飯だな」
「えぇ。最近は少し―――」
『きゃぁぁあああああ!!』
アタシと執事が朝食の支度を終え。
姫さんの食事について台所で打ち合わせをしていた時。
響いた悲鳴。
それは間違いなく――――
「お嬢様っ?!」
「馬鹿なっ!!」
執事は驚愕に目を見開き、その漆黒の瞳に同じような顔したアタシが居た。
いや、だってな。
知らない奴がいねぇって程で、泣く子も(怯えて)黙る化け物級の女侯爵。
セフィニエラ・サティ・ルフェイドが、この屋敷に『侵入不可能』の術式を張ったと言ってたんだぞ?!
『破ることは不可能』と自信満々だったんだ!
それなのに、まさか……っ!
執事もそれを考えていたのか、アタシと同じ位で顔色を無くし、走って行った。
アタシはそれを視界の端に少し映したが、問答無用で姫さんの部屋に飛んだ。
そしてそこで見たものは。
ベッドに腰かけ、姫さんの髪を撫でまわす……つい先日の変態。
姫さんは半泣きだ。
…………おいおい。
テメェ……姫さんに何してやがる。
きったねぇ手で姫さんに触れてんじゃねぇぞ?
誰に許可とって触れてやがんだ。
アタシの姫さんが嫌がって泣きかけてんだろうが。
死ぬか?
あぁ?
死にてぇのか?
嗚呼。
良いだろう。
アタシが直接ヤッてやろうじゃねぇか……。
そう言う訳で、そいつに狙いを定めた。
「死にさらせえぇぇっ!!」
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