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名門貴族の変嬢  作者: 双葉小鳥
第三章 伯爵家末娘となった変嬢
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第十一話 朝

 ちゅんちゅん、と鳥がさえずる声。

 淡くて明るい光を感じ、ふっと目を開けてみました。

「やぁ。お目覚めかな? 可憐な眠り姫。今日の僕はその菫の瞳に誰より早く映れることが出来て光栄だよ。嗚呼……。君の瞳に映る僕は、なんと美しいのだろう……。ねぇ、そう思わないかい?」

 絵に書いたような『王子様』が居ました。

 …………あぁ。

 自分に酔いしれている自己陶酔症で、重度のナルシストでしたね。

 所詮変態で変人です。

「嗚呼。そうか、僕があまりに美しくて。いや、美しすぎて声も出ないんだね! 良いよ。さぁ、たんと見惚れておくれ」

 ………………さて。

 今現在の私なのですが、薄い寝間着です。

 私の肩は布ではなく、細い紐で吊ってあるような形の淡い紫のネグリジェです。

 ちなみに、これは私が選んだものではありません。

 料理長チョイスですわ……。

 さすがに『露出が過ぎる』と言ったのですが、『可愛いからコレ』って言って聞いてくれなかったの……。

 テノールだって加勢してくれたわ。

 でも、料理長が『爺は黙ってろ』って……。

 もちろんテノールの額に青筋が浮かんだわ。

 それからはもう口論。

 最後は『もうお好きにどうぞ』ってテノールが不機嫌になって席をはずしちゃって……。

『石頭のくそ爺め。姫さんをいくつだと思ってやがる。もう少し流行に乗っからせてやりてぇとか、思わねぇのかねぇ?』

 だそうよ?

 ……私、流行とか疎くて良くわからないのだけれど。

 料理長の優しさは十分に伝わったわ。

 だからそれを着ているの。

 嬉しそうにしている料理長を見るのは、嬉しいわ。

 まぁ。

 そのせいで私のネグリジェは露出が……。

 って。

 そんなことより、今です。

 今。

 そう、私は薄いネグリジェ。

 しかも肩が激しく露出。

 その上、寝起き。

 …………つまり、つまりですよ?

 こんな(寝間着)姿で赤の他人。

 しかも男性と会うなど、とてもとても破廉恥なことです。

 ちなみにこんなことが祖国で起こっていたとしたら、不法侵入して来た男性から莫大な慰謝料。

 もしくはその命を奪うか、一生の責任を取ってもらわねばならぬほどの事。

 そして私。

 つまり女性の立場から言えば、嫁ぎ先がすべて消え。

 『不法侵入してきた男のもとに嫁がねばならない』という、とても屈辱的なことになるのです。

 それほどに破廉恥極まりないことで。

 普通のネグリジェであれば、私が来ている物ほど露出が無いのです。

 なのに、私の着ているものは……っ――――。


「きゃぁぁあああああ!!」

 

 私は布団をぎゅっと握りしめ。

 顔に熱が集中するのを感じ、あまりの事に叫ばずにはいられませんでした……。

 


 ―――――――――――


 ―――――――



「あぁ。今日の姫さん昼飯だな」

「えぇ。最近は少し―――」


『きゃぁぁあああああ!!』


 アタシと執事が朝食の支度を終え。

 姫さんの食事について台所で打ち合わせをしていた時。

 響いた悲鳴。

 それは間違いなく――――

 

「お嬢様っ?!」

「馬鹿なっ!!」


 執事は驚愕に目を見開き、その漆黒の瞳に同じような顔したアタシが居た。

 いや、だってな。

 知らない奴がいねぇって程で、泣く子も(怯えて)黙る化け物級の女侯爵。

 セフィニエラ・サティ・ルフェイドが、この屋敷に『侵入不可能』の術式を張ったと言ってたんだぞ?!

 『破ることは不可能』と自信満々だったんだ!

 それなのに、まさか……っ!

 執事もそれを考えていたのか、アタシと同じ位で顔色を無くし、走って行った。

 アタシはそれを視界の端に少し映したが、問答無用で姫さんの部屋に飛んだ。

 そしてそこで見たものは。

 ベッドに腰かけ、姫さんの髪を撫でまわす……つい先日の変態。

 姫さんは半泣きだ。

 …………おいおい。 

 テメェ……姫さんに何してやがる。

 きったねぇ手で姫さんに触れてんじゃねぇぞ?

 誰に許可とって触れてやがんだ。

 アタシの姫さんが嫌がって泣きかけてんだろうが。

 死ぬか?

 あぁ?

 死にてぇのか?

 嗚呼。

 良いだろう。

 アタシが直接ヤッてやろうじゃねぇか……。

 そう言う訳で、そいつに狙いを定めた。


「死にさらせえぇぇっ!!」



 ―――――――


 ――――― 



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