第十三話 化け物女
行きたくないわ。
とても……。
テノールたちが怖いわ…………。
『これ以上来たら本気で怒る』って言ってるの!!
「せ、セフィニエラさんッ! わ、私はここで!!」
「え? 何を言っているの?」
セフィニエラさんにぐいぐいっと手を引かれます。
私は必死に踏ん張る。
でも……ずるずると地面には私が作った二本の線が描かれるだけ……。
空しい……。
そしてテノールたち使用人ズが怖いの……。
「せ、セフィニエラさんッッッ!! わ、わわわ私これ以上は!!」
「大丈夫よ。アレ、私の所属している組合の組合員だもの」
そう言いつつも進むセフィニエラさん。
私はなおも踏ん張ります。
無駄なあがきと言わないでください……。
「失礼。お嬢様の手を離していただけますでしょうか? セフィニエラ・サティ・ルフェイド様」
「え? どうしてかしら」
ピタリと立ち止まるセフィニエラさん。
そのため、私も踏ん張るのを止めて、若干顔が怖いテノールを見た。
「お嬢様が嫌がっておられます」
「あら。あなた達がそんな怖い顔してるからでしょう?」
「………………」
あ。
テノールが正論言われて黙ったわ。
しかも。
彼。
顔が、表情が、怖くなったの……。
ついでに双子が黙ったテノールを見て、ニヤついてるわ……。
『そらみろ』
『正論言われただろう?』
いやいや。
ルシオ、ゼシオ。
貴方たちもテノールに負けないくらい怖い顔していたわよ?
なのに、それは無いのではなくて?
「さ、行きましょう。私の仲間を紹介するわ」
セフィニエラさんは綺麗に微笑んで、また私の手を引いて行きます。
テノールたちが凶器を仕舞いませんが、『行ったらダメ』って言わないから大丈夫だと判断して、手を引いて下さるセフィニエラさんの後に続く。
そうしたら、鮮やかな赤い髪に柔和な目元。
なのにとても鋭い銀の瞳。
『その不釣り合いな目と、その瞳の様に強くて鋭い魔力が怖い』と。
素直に思いました。
正直に言えば、行きたくありません。
でも、セフィニエラさんはドンドンその男性に近づいて行きます。
……勘弁してください。
「組合長。あなた、どうしてここに居ますの?」
「……国からの指示だ。セイニィ、お前は招集をかけたというのにこんな所で何をしている……?」
目元が鋭くなった男の人がセフィニエラさんに問うた。
男性のこの感じから、とても苛立っていることが分かります。
怖いくらいに、ね……?
それなのに、セフィニエラさんが眉を吊り上げた。
しかも怒気が手に取るように分かるの。
……どうして、二人して怒っているのかしら?
そして、なんで私。
巻き込まれそうなの……?
「魔獣の処理よ。まったく。何処かの出不精な組合長が私にお鉢を回す最低男のせいでね」
「お前が期日を守らないからだろう……?」
「あら……それを盾に魔獣退治にすら出ようとしない人が言うセリフなのかしら?」
「では。期日を守れ」
「イヤよ。当たり前でしょう? 私のやり方で良いと言ったのは先方ですもの」
ふんっと鼻で笑うセフィニエラさんと、片眉を跳ね上げた男性。
『このままでは危険』
そう思いせめて話を逸らそうと、セフィニエラさんに問いを投げた。
「せ、セフィニエラさん。この方は?」
「え? あ、あぁ。これは私の所属している組合の長よ。ハッキリ言って雑魚ね」
彼女、飄々と暴言を吐いたわ……。
『組合の長』って男性はため息。
そして、怖かった目元は柔和な目元に戻った。
でも、瞳は鋭いまま。
……この不釣り合いさが怖いわ…………。
『お前を基準にするな。この化け物女』
そんな声が聞こえたような気がしたの。
でも、気のせいよね?
と。
まぁそんな感じで、セフィニエラさんのお口聞きにより、門を破壊した人たちはぞろぞろと馬や徒歩で帰って行かれました。
……あら?
誰でもが転移術を使えるのでは……?
今のところセフィニエラさんと話をしていた男性のみ、それを使われたのですけれど?
どういうことでしょう?
「セフィニエラさん。先ほどの方以外、転移術を使われないのはなぜですの?」
「え? あぁ。魔力がたりないからよ」
当然とばかりにそう言われました。
……では、変じゃありません?
「……『子供でも出来る』と、おっしゃいませんでした?」
「えぇ。だって私、子供のころから出来たもの」
「…………常人には、無理なのではありませんか?」
「? さぁ、それはどうなのかしら? 組合長は使えるわよ?」
「その方だけなのでは…………」
「あら、それは違うわ。他にもごろごろ居るわよ。転移術を使う者なんてね。珍しくもなんともないのよ」
「ち、ちなみになのですが、術式を見せていただけませんか?」
「えぇ構わないわ」
セフィニエラさんはそう言って、足元にその術式を展開させてくださいました。
そして。
私は我が目を疑いました。
だって、私の知っている陣とまったく同じだったのです。
あの展開すら難しいと言われる転移術と……。
…………さて。
本当にこのお方は人間なのでしょうか……?
私の頭の中ではあの男性が言った。
『お前を基準にするな。この化け物女』
と言う言葉が響きました。
と言うよりも、転移術をたった一人で行えるすごい方にそう言われるこの女性は、いったい何者なのでしょうか……?
読んで下さり、誠にありがとうございます。
風邪ひいてダウンしてました。
てか、まだ尾を引いてる感じです。
皆さんも風邪には気をつけてください。
甘く見たら痛い目に遭いましたんで……。




