第十二話 音
「ところで、さっきから気にはなっていたのだけれど……この音は何かしら?」
セフィニエラさんが急に落ち込むのをやめ。
そう問われました。
でも、何も聞こえません。
「? 音……?」
「えぇ。聞こえるでしょう?」
さも当然のごとく問い返されてしまいました……。
二度言いますが、何も聞こえません。
屋敷はいつも通り静かで、平穏です。
でも以前。
変な音が『侵入者』って言葉共に屋敷中に響いたので、驚いてテノールに問うたことはあります。
でも、それ以降はまったくそんなことは無く。
平穏なのです。
ちなみに、その音は『誤作動で作動した緊急警報』だと。
『お騒がせしてすみません』ってテノールが謝ったのよ?
もしかして、それかしら?
でも、テノールが『もうこんなことが無いようにしてきました』って微笑んだから、過剰に反応してしまったことが恥ずかしかったのよ……。
「いえ、何も」
「……そう。変ね、『門が破壊され、侵入者多数』って聞こえるわよ?」
きょとんとして、セフィニエラさんはそう言いました。
…………『侵入者』って言葉が怖いのですが、私の気のせいでしょうか……?
「まぁ良いわ。とりあえず様子を見に行きましょう。手を貸して」
セフィニエラさんはそう言って私の手を取って立ち上がった。
私は立つように促されたので、立ち上がる。
「手を離してはダメよ? じゃないと危ないわ」
そう、不吉なことを言ったセフィニエラさん。
何をしようとしているのかしら…………?
なんて不思議に思っていたら、足元の床がスッと消え。
落ちるような浮遊感が……って!
え?!
うそ!!
「っ…………?!」
「大丈夫?」
いつの間にか目を閉じていて、そのことに声をかけられて気づきました。
だからそろそろっと目を開けると、心配そうなセフィニエラさんが見えます。
「あ……。はい、大丈夫です。でも、今のは……?」
「あぁ、あれ。転移術よ」
「え? 転移術?」
「えぇ。出来るでしょう?」
当然のような顔で問うセフィニエラさん。
ですが。
私でなくとも、私の生まれた国ではそのような術を使える方は国王陛下と、宮廷魔導師数名。
ですが、陛下たちですら。
術式を展開させるだけで一苦労。
ましてやそれを発動させるなど、魔導師が何十人も必要になると聞いております。
それをこの方は一瞬で、しかもただ一人で展開し、発動を行われた。
とても、すごい事です。
考えられません。
この方は、本当に人間なのでしょうか……?
「……そんな怖い顔しないで。この国ではこのくらい子供でも出来るわ」
「え……。子供、でも……です、か?」
「えぇ。あなたみたいに魔力が変形してない」
「そう、なのですか……」
「えぇ。あなたのその歪みを直してあげたいけれど、生まれつきのようだから、無理ね。力になれなくてごめんなさい」
「あ。いえ。気にしないでください。私、この魔力適性がやっと好きになれたのですもの」
「そうなの? なら、大丈夫ね」
「はい」
と。
ここまで会話して、私が居候している屋敷の外。
屈強な印象を受ける、鉄格子状の門に目を向けました。
ですが、それは無残にも壊れ。
屋敷の敷地の方に倒れております。
そして。
その倒れた門を超え、大勢の人間が敷地に入ってきております。
テノールたちが何故か物騒なものを振り回しています。
……変ね。
お客が来るなんて連絡、もらってないのに……。
「あんなに大勢……。火急の用かしら……?」
「(いや。違うと思うわよ……?)…………って。あれ、組合長じゃない」
セフィニエラさんが、そういって。
私の手を引いてその物騒なことが起こっている場所に近づいて行きます。
……どうしましょう、困ったわ……。
こちらを向いている使用人の皆の目が驚愕を示しているの……。
しかも、こっちを向いているテノールと双子の顔が怖いわ…………。
『こっちに来るな』って。
怒っているんですもの……。




