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名門貴族の変嬢  作者: 双葉小鳥
第一章 名門貴族の変嬢
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第三話 分裂

 軽くノックをして、扉を開ける。

 部屋の中には、両手で顔を覆ってソファーに沈み込んだ母様と、傍に付き添う赤髪に鳶色の瞳の女性・カンナの姿。

 お茶の用意をしていたミリー。

 ルシオは居ない。

 まぁ、彼については無視の方向で行きます。

 いつもの事ですもの。

 とりあえず、母様の向かいの席に座る。

 なんて考えていたら、ミリーがお茶をテーブルに置いてくれた。

 

「母様。少し、落ち着かれましたか?」

「……えぇ。ごめんなさいね、リスティ」

 弱弱しく笑いかけて来た母様。

 私はその笑みに、胸が締め付けられた。

「ごめんなさい。母様……」

「何を言うの? リスティ。貴女が謝る必要なんて、どこにもないのよ?」

「いいえ。母―――」

「何も、無いの。そうでしょう……? ねぇ、カンナ?」

 母様はそう微笑んで、カンナの手を握った。

「はい。奥様」

 微笑みを浮かべ返したカンナ。

 どうやら。

 私がここに来たのは間違いだったようですね。

 引き揚げましょう。

「母様。私、少々用事を思い出しましたの。ですから、席を外しますわ」

「あら、そう? 分かったわ」

「では。行きますよ、ミリー」

「はい!」

 元気な返事と共に、嬉しそうに微笑んだミリー。

 私は彼女を連れ、母様の部屋を辞した。

 自身の部屋に向かうために通る廊下は、花や絵画の飾られ、華やかに見えるのに酷く冷たく。

 寂しく感じた。 

 長いようであり、短くもある時間を私は無言で歩き。

 ミリーが後ろに続く。

 何処か気遣わしげな気配をミリーから感じるけれど、今は口を開きなくない。

 心配をかけているという自覚はある。

 でも何かを言うのが億劫だった。

 だからいつもより、歩みが速くなったようで、少し慌ただしい足音が後ろ。

 ミリーの足元からしていた。

 私がこれに気づいたのは、自室の扉前。

 ハッとして振り返ると。

 そこにはうっすらと汗をにじませ、呼吸を乱したミリーの姿があった。

「ぁ、ごめんなさい。ミリー。苦しかったわね」

「あ。い、いぇ。だいじょうぶ、ですっ……」

 弱弱しく微笑んで。

 おまけに、息も絶え絶えと言った様子で言われても……。

「…………ごめんなさい。少し、考え込んでしまっていたわ」

「大丈夫です。気にしないでください」

 『これでも鍛えてますもの!』と、強がって言ったミリー。

 ……本当に鍛えているのかしら?

 ちらりとそう頭によぎったけれど、私はそれを無視して微笑んだ。

「そう。でも無理は辞めてちょうだいね」

「はい、ありがとうございます!」

 と。

 嬉しそうに綺麗に笑うミリー。

 この微笑みを、屋敷の者や回りの人間は【天使の微笑み】と呼んでいることを、私は知っている。

 もちろん。

 それに異論はないわ。

 いっそ【大天使の微笑み】にしても良いかもしれないわね。

 まぁ。

 それは置いておいて。

 部屋に入りましょう。


 ――――ガチャ……。


 …………ドアノブに触れるか触れないかのところで勝手に扉が開きました。

 そして開けたのは肩に着く黒髪に切れ長の琥珀の瞳の男。

 ちなみにこれはルシオではありません。

 ゼシオです。

 厄介なことに双子なのです。

 彼らは……。

「ゼシオ。私は『勝手に部屋に入らないで』と何度言えば良いの」

「………………」

「……………………」

「…………………………」

「…………分かったわよ。鍵をかけなかった私が悪いのね。もう……」

 もう、嫌だ。

 この人…………。

 無言でしかも無表情。

 雰囲気だけで言ってくるんだもの……。

 『だったら鍵を閉めて行け』って。

 『いつも言っているだろう』ってね。

 ……まぁ、あなたの場合。

 いつも口、開かないけどねっ!

「はぁ…………ルシオ、居るのでしょう」

「はい」

 短い返事と共に、ゼシオが二人に分裂――した……?!

 え?

 え?!

「落ち着いて下さい、お嬢様。ルシオ様は元からゼシオ様の後ろに――」

「ぁ、そ……そうよね! ちょ、ちょっと私。頭の中が混乱しているみたいだわ」

 て言うか。

 そんなに私、分かりやすく狼狽えていたのかしら?

 なんて考えて恐る恐る振り返ると、ミリーが困った顔で微笑んだ。

 …………そんなにわかりやすく狼狽えていたのね……。

 恥ずかしいわ……。

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