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名門貴族の変嬢  作者: 双葉小鳥
第二章 元、名門貴族な居候
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第八話 理解不能

 私の部屋には一人掛けのソファーとローテーブル、ベッドそれしかないの。

 だから私がベットに座って、四号にソファーに座らせて四号の話を聞いていた。


「―――んで、オズが十一号に突っかかってその拍子に鍋ひっくり返してなぁ。十一号が激怒してお玉もって追っかけ回してやがんの! でもってこれが執事に見つかって、大目玉! 二人してベソかいて泣いてな、しかも俺までとばっちりよ? もう、困ったもんだ」

「まぁ……ふふふ」

 

 その場面が頭に浮かんで、ケタケタ笑う四号につられて笑うと、彼は急に表情を引き締めたわ。

 どうしちゃったのかしら?

 

「で。一つ報告」

「え? 何かしら?」

「実は…………ミリーについて……」

「……………………『ミリーについて』…………?」


 問うと、四号は表情を硬くしたまま頷いた。

 彼は少しためらうように目をそらして、私と目を合わせる。


「………………」


 目を合わせたまま、沈黙した四号。

 先ほどまでのふざけた様子は消え失せ。

 ただただ私と目を合わせている。


「なぁに? どうしたの? 四号」

「…………怒らないし、泣きません?」


 変な前置きをしてきたわ……。

 何があるというの?

 そう怪訝に思いつつ、『えぇ。もちろんよ』と頷いた。


「んじゃ、言いますけど……ホントに怒って泣かんで下さいよ?」

「えぇ。大丈夫よ? だから、気になるから早く話して?」

「ミリーが自殺を謀った」


 一つ頷き、ぺろっと四号の口から飛び出した言葉。

 その言葉が理解できなかった。

 

「え……? ごめんなさい、もう一度言ってくれるかしら?」

「ミリーが自殺。謀りました」


 四号は若干困った顔で笑いながら、そう言った。

 

 何のことか解らない。

 でも、必死に働こうとしない頭を働かせ、彼の言った言葉の意味を探る。

 彼は『みりーガジサツヲハカッタ』といった。

 それは……どういう意味か…………。

 


「……………………え……? まさか……そんなことっ…………!」

「事実ですよ。姫さん。俺がちゃんと手当しましたから」

「……み、ミリー――彼女は無事なのっ?」

「あぁ。首を切りつけただけだったんで、直ぐに治療したんで、命に別状ないですよ」 

「そう…………」


 無事を聞いて安心と言うより、胸のあたりがズンと重くなったような気がして、それに伴い。

 ゆっくりと視線が四号から外れて、膝に落ちて行った。


 『ミリーがそれをやるんじゃないか』って、心配はあったの。

 だけどね。

 私。

 あの子が、『記憶のない上に自分が分からなくて怖い』と言って。

 『こんな怖い思いをするなら死んだ方がマシだ』って泣いていた頃。

 あの子に『死んだってなにも変わらないのよ』と。

 言い聞かせた。

 何度も。

 何度も……。

 そうしているうちに、彼女は折れて『そう、だよね』と、頷いた。

 だから、『大丈夫だ』と。

 『心配はいらない』のだと……。

 そう……自分に言い聞かせ、この二年を過ごしたのよ…………。

 

 それなのに、それなのに……どうして…………。

 

 あれほど。

 あれほど、言い聞かせたのに……。


 『幸せになるのよ』と言ったのに。

 幸せになって欲しかったの……。


 もう、私の言った事なんか……忘れてしまったの…………?


 私の言った事なんて…………どうでも良いの……?

 

 ねぇ、ミリー。

 私ね。

 あなたに幸せになって欲しかったのよ?

 私は、あなたに笑っていてほしかったの。

 あなたに自殺なんて、謀ってほしくなかったのよ……!

  

 膝の上の両手でギュッと拳を握ると、目からあふれた涙が、頬を伝った。 


「あーぁ……。泣くなって……おっかないの(て、ここの人間全部おっかねぇけど……)が来ちまうって」

「ごめ、なさ……。悲し……悔しくて…………」

「…………ぁぁ……だよ、なぁ……」

「ごめん、なさい……」

「まぁ、しょうがないか……気にすんなよ。おっかないのに切り掛かられる覚悟して、報告してっからな…………」


 四号はそう言って、笑ったような気がした。

 それから。

 私の頭に片手を乗せて、それを優しく。

 そしてぎこちなく動かした。

 私はぎこちなく動くその手の暖かさに、重く沈んだように感じた胸のあたりが、少しだけ軽くなったような気がした……。

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