第七話 庭は緑
リビングのソファーに座って、窓の外。
バリトンとその部下、双子の部下が手入れしている庭を眺める。
青々とした木々に止まり、色とりどりの小鳥が囀り、歌う。
…………我が家の庭は、緑ばかり……。
あぁ、違ったわ。
『居候している家の庭は』だったわね。
まぁ、いろいろあるのだろうから何も言わないけど……。
「お嬢様。そんな沈んだ顔しないでください」
「そうですよ。姫様。姫様には笑顔が似合うのですから、笑ってくださいませ」
リビングに居る、二人のメイドさん。
初めに困った顔で声をかけて来たのがマリア。
つつましく微笑みを浮かべて言ったのがメイサ。
この時、マリアがお茶を入れてくれて、メイサがお菓子を出してくれたわ。
「ありがとう。マリア、メイサ」
私はお礼を言って、お茶を啜り。
メイサが出してくれたお菓子をつまむ。
お茶はもちろんテノールのオリジナル。
お菓子はクッキー。
「美味しいわ……」
ほっこりとした気分で、笑みが浮かんだ。
なにやら二人がホッとしたように微笑んだのですが、何故でしょう?
それと。
何か庭を横切ったようにも感じるの。
あぁ。
きっと、ルシオとゼシオね!
彼らは良く、庭を走り回っているもの。
きっと楽しいのね。
…………久しぶりに剣か槍を握りたいわ……。
でも、もう自衛なんて必要なくなってしまったのだけれど……。
あの子が…………ミリーが……居ないから…………。
ついつい沈みかけていた時、部屋にノックが響いた。
『どうぞ』と声をかけると扉は音もなく開いて、扉の向こうに立っていた男の人が入ってきたわ。
でも、変ね……?
私。彼に見覚えがないの……。
「何者?!」
そう言ったマリアの両手にはいつの間にか短剣が二本。
さらに手に黒い鞭(何の仕組か刃物が突出したり、飛んで行ったりする)を持ったメイサが静かに、凛として言葉を紡いだ。
「ここを、我らが主人の館と知っての事か……?」
そう言った二人が不穏な空気を放っています……。
怖いわ……怖いの…………。
ま、まぁ。
確かに貴方たちの主人が作った館よね。
うん。
間違ってないのよ?
間違ってないの。
むしろ正解なのよ?
でも、その危ないのを私の目の前でちらつかせないでっ……!
後生だから…………!!
なんて、考えて内心で絶叫していたら、窓を開けて入ってきた料理長の部下・四号に手を引かれて自室に連れて行かれたわ。
この間。
右のこめかみから眉にかけて走る傷が特徴の、四号は始終へらへらしていて。
『姫さん。あんなとこに居たら危ねぇから部屋に行きましょうや。なんだったら俺が面白い話ぐらいしますよ』
そう言って彼はまた、へらっと笑ったの。
なんでも、(テノールの部下で使用人をしてくれている)ダティオが(双子の部下でメイドをしてくれている)ティフィを口説いたら、『はぁ。そうですか』と流されて凹んでたんですって。
ほかにも面白い話を部屋に戻ってもいっぱいしてくれたわ。
ついでに、私の部屋の壁についてる黒くて四角い板に手を当てて、天井に張り付いてる半丸体の変なのを光らせて、灯りをつけてくれた。
ちなみに。
この灯りは私がいくら触れてもついてくれないのだけど……。
だから私、いつもマッチを擦って蝋燭に火をつけているのよ…………。
ついでに、この屋敷でこれをつけきらないのは私だけなの……。
皆ね。
簡単に明かりをつけて、当たり前な顔をしているわ……。
私が下手なのかもしれないけれどね。
いえ。
私が下手なのね……。
分かっているのよ、そんなこと。
だって、私。
致命的なほど魔力適性が偏っているんですもの……。




