第六話 料理長
毎回のようにテノールが作る草料理に文句をつけていたの。
そしたらね。
つい数日前の事よ。
文句を言いながら出された食事を食べていたら急に手足がしびれたの。
変よね?
なんて思いながら食事の手を止めていたら、テノールが『いかがなさいました?』って、問うてきたの。
だから、素直に『手足がしびれるの』って答えたら、テノールったらその食事を床に払い落としたのよ?
それはもうすごい速さで……。
使用人のみんなは彼の様子に驚いて、動揺していたわ。
無表情がデフォルトな人たちまで……。
本当に、不思議なこともあるものね。
ついでに、その時のご飯はお世辞にもおいしいとは言えないものだったわ…………。
泣きそうなくらいに、ね……。
***
アタシの姫さんが毒を盛られた。
毒の影響か、一時的に手足のしびれ有り。
その知らせを旦那を通してアタシは聞いた。
『冷静になれ』とそいつは言った。
だがな。
アタシとって姫さんは特別だ。
『何をおいても守る』
そう決めた存在。
アタシのそれに手をかけられたんだ。
ただで済ますわけねぇだろ……?
アタシは報告を受けたその日、テノールと双子、腑抜けてやがった部下どもを目の前に召喚した。
もちろん、魔術だ。
―――――――――
―――――――
「テメェら何してやがった……?」
家に召喚した奴らに向け、怒鳴りそうになる気持ちをぐっと押さえ、言葉を発する。
愚図で腑抜けの部下どもが悲鳴を上げたので、『うるせぇ。黙ってろ』と釘を刺す。
さて。
屑なこいつらはどうでも良い。
だがな。
よりにもよって、姫さんのすぐそばに居ながら気づけなかった馬鹿どもめ。
「アタシの姫さんに、もしもの事があったら……どうなるか分かっているな…………?」
「はぁ……安心しろ。お嬢様に盛られた毒はすぐに解毒してある」
そう答えたのはテノールだ。
「そうか。アタシが戻ってくるまで、姫さんの身の周りと食事に気をつけて置け。良いな」
「お前に言われるまでもない」
「それで、姫さんに危害を加えた屑の目星はついているのか?」
問うと、テノールではなく双子のどちらかが口を開いた。
「…………既に放った。あとは情報を待つのみ……」
奴らはそれだけ言って踵を返し、立ち去った。
こうして部屋にはアタシと屑な部下だけが残る。
チッ。
何故こんなにも無駄に居ると言うのに、誰一人として気づかなかった?
気づけてさえいれば……。
姫さんがテノールの用意したモノ以外に、あんなものを口にするはずがなかったんだ。
あぁ忌々しい……。
どこのゴミ屑だ?
あぁ?!
アタシの姫さんに手を出す奴はよぉ……!
「おい……一号」
「はい。お頭」
「……『お頭』は辞めろ」
「すいません」
「良いか一号。アタシの姫さんは絶対に守れ」
もし何かあっても今ならテノールと双子が目を光らせている。
奴ら三人に限って、このような失態はもう二度とありえないがな……。
「了解しました」
「……行け…………」
部下たちを一斉に姫さんの居る屋敷に飛ばした。
姫さんに危害を加えた屑については……この分だと二、三日で分かるだろう。
そして、テノールの実験体にでも使われるか、双子の娯楽となるか。
はたまた、即刻切り捨てられるか。
このいずれかだろうな……。
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