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名門貴族の変嬢  作者: 双葉小鳥
第二章 元、名門貴族な居候
23/104

第四話 バリトン

 ***



「あら。テノール、料理長、ルシオにゼシオ。皆、どうしたの? お仕事はもう良いの?」


 きょとんとして問うた、ずれた娘の声。

 少し興が乗っていたというのに、またこの娘のせいでそがれてしまった……。

 俺は腰に回している刀をいつでも抜けるよう準備していたが、その手を離す。

 

 なにやら娘は小奇麗な男とくだらないことを言い合い。

 男の方が娘にあきれ果てている。

 苦労しているようだ。


 …………まぁ、これならわからんでもないが……。


 だが。

 小声で暴言を吐くところはしっかりているな。

 ついでに、娘の『目の下にクマが――』のくだりで、俺を鋭い目つきでにらむのも……。

 しょうがないだろう。

 俺だって仕事なんだからよ。

 なんて考えながら男たちから送られる、射殺すような鋭い眼差しをシカトする。

 そうしたら、ずれた娘が『くすっ』と笑った。


 …………何が面白くて笑ったのだろうな、この娘は……。

 

 そう考えていると。

 小奇麗な男が溜息をついた。

 もちろん、娘が気づかぬ程度のものだ。

 どうやらこの男。

 苦労性らしい。

 ついでに、この館の人間はおかしい。


 ……いや、まぁ。この娘が一番おかしいんだが…………。


 だいたい、その辺の娘と同じ気配しかしない。

 さらには注意力、警戒心と言った物も散漫。

 しかし。

 娘を除いたすべての人間。

 こいつらからは、俺と同じ匂いがする。

 恐らく同族だ……。


 そう分析していると、娘が不意に窓に目を向け、『皆、元気かしら』とつぶやく。

 これに激しく動揺する館の人間。

 それに笑みを浮かべ、笑いかける娘。

 

 こいつら、なんなんだ……?


 娘は見るからにその辺の娘と変わらな――――いや。違うな……。

 その辺の娘は猛毒の毒草を平気で茶にして飲んだりはしないし、毒を飲んだことによる体の異常を訴えないなどありえない。

 そう思い、暇つぶしにと持っていた『猛毒草図鑑』という題名の、本を取り出す。

 そして、ドドウィズ草のページを開き。

 娘に差し出した。

 娘は興味を示し、覗き込んできた。


『せめて効果ぐらい知っておいた方が良いだろう』

 

 そう思っただけだ。

 ……が。

 小奇麗な男に一瞬にして紙切れにされてしまった。


 …………以前あった時以上に素早い動きに見えたのは、気のせいだろうか……?


 そう悶々としていると、娘が嬉しそうな顔でこちらを向いた。


「ですって! どうかしら? 彼女。見た目は怖いけど、とっても優しくて料理が上手なのよ? あ。その前にバリトンボイスの親切な方。あなたは奥様がいらしゃる?」

  

 ……いやいや。

 何が『ですって!』だ……。

 どんだけ力入ってんだよ……。

 …………って。

 なんで俺は男を紹介されているんだ……?

 

 ……ん?

 ………………『彼女』……? 

 誰が、『彼女』なんだ?

 まさか。

 その古傷だらけの、見るからにやばそうな男か……?

 いや。

 ちょっと待て。

 聞き流していたが、確かそんなことを言っていなかったか……?

 

 そう思い、娘が『料理長』と呼んだ男――――いや、女? の方を向く。


 ……凶悪に笑う賊の頭目を見たような気がした。

 いや、幻覚だ。

 だが、以前は本当にそれだったのだろうな……。

 

 などと思い。

 娘の方に目を向けると、いつの間にか娘が目の前に置いてあったローテーブルに手をついて、身を乗り出してきていた。

 

「ね、どうなの? 奥さんいるの? いないなら、彼女は絶っ対! おすすめよ!!」


 満面の笑みに、キラキラとした目で言う娘。

 ……いや、まぁ。

 嫁自体もらっていないが、そんなものをお勧めせんでくれ…………。

 

 部下の様な屈強な嫁はいらん……。

 俺は可愛い嫁がいい…………。

 

 そう考えつつ、顔をひきつらせたとき。


『そんな高望みするからっすよ。『来てくれる』って言ってくれるなら、もらっておいた方がいいっすよ? じゃないと、ボス。一生独り身っす』


 冗談を言う風でもなく、酷く真面目で真剣な顔で言って来た部下の一人を思いだした。

 ついつい漏れた苦笑い。


「ねぇ? どうかしら? バリトンボイスの親切な方」


 身を乗り出し、小首をかしげた娘。

 その娘を『はしたないですよ』と軽くいさめる小奇麗な男。

 楽しげな古傷だらけの『料理長』と呼ばれる女。

 始終無言の双子。

 それらを見て、軽く頭を抱えた。


 ……まぁ、そうだよな…………。

 

 俺は頭の中に響いた、つい最近部下に言われた言葉に従うことにした。



 ***



 こうして、料理長とバリトンボイスの親切な方がであって。

 二か月後。

 二人は無事、結婚したわ。

 とても良いことね!

 私は料理長がずっと料理長をしてくれるって、一緒に居てくれるって言ってくれて、とっても嬉しかったの。


 でも、バリトンボイスの親切な方は、名前を教えてくれなかったわ……。

 だから、呼ぶときに『バリトンボイスの親切な方』と呼ぶのは大変だから、『バリトン』って呼ぶことにしたの。

 もちろん。

 彼には了承を得たわよ?

 テノールには呆れられたけど、私らしいって、笑ってくれたの。

 双子にはニヤって笑われたわ……。


『やっぱり馬鹿だな』

『あぁ』


 って。

 雰囲気だけで言ったから、テノールに言いつけたの。


『ルシオとゼシオが私を馬鹿にするの』


 ってね。

 そしたら――――


『お嬢様が馬鹿なのは本当の事ではありませんか』  


 心からの満面の笑みで言われたの……。

 これって、怒るべきなのかしら?

 そう、庭師をしてくれることになったバリトンに聞いてみたわ。

 バリトンは困った顔で苦笑するばかりだったのだけれどね……。

 でも。

 『姫さんの長所だな』って。

 訳が分からないわ。

 

 あぁ、後ね。

 料理長とバリトン、二人の仲も良好みたいよ?

 だって、料理長のお腹に子供が居るんですもの。

 なんでも、女の子だそうよ?

 きっと料理長に似た、優しい緑の瞳を持った女の子が生まれるのよね!

 髪は何色かしら?

 バリトンに似て、緑の髪なのかしら?

 ……それも、素敵かもしれないわね!


 こうして。

 バリトンと、バリトンについて来た人たちが屋敷に来て。

 少なかったメイドさんは少し増えて、使用人さんたちも少し増えた。


 テノールたちが建てて、私が居候している屋敷はまた一層賑やかになったわ。


 とても良い事ね!

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