第十七話 別れ
「そ、そなたたちは……? っ……?! その娘はっ…………!」
ベッドで上体をお越し、震える声でそう告げた陛下。
私はスッと膝をつき、頭を垂れた。
「ご無礼をお許しください、陛下。彼女は記憶と、二年もの年月での成長を封じられております。解除を試みたのですが、私の力では不可能でした」
じわりと目が熱くなり、鼻の奥が痛い。
それを必死に抑えて、涙が出そうになるのを堪え、続けた。
「なので、どうか……どうか、彼女にかけられている術を、解いていただきたいのです」
上手く言葉が見つからなかったわ。
でも、言いたいことは言えたと思う。
「…………分かった。最善を尽くそう」
心強いお言葉をいただけた。
陛下のお言葉が嬉しくて、堪えていた涙がこぼれ。
床に落ちた。
………………これで、私の役目も終わり……。
そして。
私は殺されたくないから…………【リスティナ・ファスティ】を殺して、この国を出るわ……。
だからミリーに会えるのも、これで最後……。
だって彼女はこの国の王女様。
私は名門とはいえど、ただの貴族。
王族の方々から見れば、ただの臣下。
……これまでのように、親しい間柄であってはいけない。
私は陛下の許しを得ずに立ち上がる。
そして、彼女を抱きしめた。
「【起きて。ミリー】」
耳元に小さく囁きかけると、ミリーは小さく『んぅ……』と呻いて、ゆっくりと目を開けた。
だから抱きしめるのをやめて体を離した。
「りぃすぅ……? どーしたの?」
目をこすりつつ、ぽやんとした様子で問いかけて来たミリー。
私はそんな彼女が微笑ましくて。
つい微笑んで、彼女をまた、抱きしめた。
「ミリー。私、あなたのことが大好きよ。愛しているわ。私の可愛いお姉ちゃん」
笑顔を浮かべて言って、すぐにミリーの肩に顔を押し付けた。
そうしたら、ミリーが酷く狼狽えたわ。
「え? リースと私、同い年だよ……?」
「…………いいえ。違うわ、違うのよ……。ごめんなさい、もっと……もっと、早く、気づいていれば……っ…………」
こんなに……こんなにも、離れるのがつらいなんて…………思わなかったはずなのに……。
別れたくないわ。
離れたくないのよ……。
姉のように、妹のように大切な……家族と…………。
「え、な、なんで。なんで泣いてるの? リース」
良くわからないと狼狽えているミリー。
私は……そんな彼女に『さよなら』を告げなければいけない………。
だからせめて、最後くらい…………笑顔で……。
そう考えて私は彼女から離れ、料理長の傍に向かった。
「え? なんで……?」
酷く戸惑ったようなミリーの声が聞こえた。
理由は分かっているわ。
私が、ミリーがついてこれないよう、彼女に足止めの術を使ったからよ。
後。
料理長に何も言っていないのに、彼女はさっき展開させたモノと同じ術を展開させていたわ……。
本当、良く気がつくんだから…………。
なんて思いながら、彼女の陣の上に向かい。
ミリーを振り返る。
そうしたら。
戸惑い、泣き出しそうな顔のミリーと目があった。
だから。
私はいつも通りに、笑顔を浮かべた。
上手く出来たのか、なんて分からない。
「さようなら、ミリー。幸せになるのよ」
そう私が告げるとともに、料理長が術を発動させ。
私の言葉に絶望の表情を浮かべたミリーを置いて、私たちは屋敷の私の部屋に戻った。