第十二話 足音
「「…………」」
二人の表情は変わらず固い。
どうやら、私を見極めようとしているようね……。
まぁ。
いくら見ても、私は私。
変わりはないのに……。
――――ぱたぱた。
扉の無くなった入り口から聞こえた、遠く、小さな音。
私はそれがミリーのモノだと分かった。
……まぁ。
あの子ぐらいなのよね……。
こんな足音たてるのって…………。
第一。
父様も母様も走ったりなんてしないし、屋敷の使用人たちにおいては、足音なんてたてないもの。
…………変ね。
私。
『一大事以外、走るなんてみっともない事してはいけません。優雅に歩きなさい』
と。
教えてはずなのですが……。
ま、まぁ、今は忘れます。
聞かなかったことにしますわ……。
それより。
テノールと料理長よ。
「返事は早い方が良いわ。……詳しくはまた後で話すわ」
私がそう言って、口を閉ざしたと同時に、ミリーの足音が近くに来た。
だから話をかえましょうね。
「ねぇ料理長。私ね、明日。あなたの作った【びっくりディナー】が食べたいわ」
私は静まり返っていた室内を和ませるように、いつものように笑顔で笑った。
これにテノールと料理長が、なぜか安堵の表情を浮かべたわ。
なぜかしら……?
「あぁ。もちろんだ。腕によりをかけて作ってやる」
ニコリと笑った料理長。
……やっぱり、その辺のボンボンがみたら失神すると思うわ…………。
まぁ、私は見慣れてしまったのだけれど……。
「お嬢様。まったく貴女は、なんでまた、起きて早々にあんなゲテモノ料理を……」
呆れ顔なテノール。
でも、その顔はすごく優しい。
「あぁん? んだゴラ! あれのどこがゲテモノだってんだ? あぁ?」
眉を吊り上げた、がらの悪い料理長。
……何度も言うけど、顔が怖いわ…………。
そして怒ってる雰囲気がだだ漏れ……。
って。
こらこら!
廊下から小さな悲鳴が聞こえたわよ?!
そして一つだった足音が増えたわ!!
「チッ……雑魚が…………」
と、料理長。
苦笑するテノール。
このことから、料理長の手下と判断したわ。
きっと調理場でこき使われてる何号かの人ね……。
「たっだいま~! りーいす~ぅ!」
とか考えてたら、ミリーが戻ってきた。
そして笑顔でベッドにダイブしてきたわ……。
……楽しそうね……ミリー…………。
私は、近いうちに自分の首が飛びそうで怖いわ……。
………………………………。
………………なんてね。
嘘よ、ウソ……冗談。
…………まぁ。
このままだと私。
九分九厘、首が飛ぶのだけれど……。
綺麗な青い空を舞うの。
……それだけは遠慮したいわ…………。




