その五
「アッ、ハッ、ハッ、ハッ、!」
アゲハ蝶が、いきなり大きな声で笑い出しました。
蜘蛛は、びっくりして動きを止めます。
蜘蛛だけではありません。
つかまっていた蝶たちも驚いて、アゲハ蝶を見つめます。
「ど、どうしたんだ」
蜘蛛は、訳がわかりません。
「あなたは、なあんにも知らないのね。かわいそうな蜘蛛さん」
アゲハ蝶は、蜘蛛をバカにしたように言いました。
「なんだとっ。どういうことだ!」
「おしえてほしい?」
アゲハ蝶は、自慢気に、そして自信たっぷりに話し始めました。
「蜘蛛さん、あなたは知らないでしょうけど、私たち蝶も最初はあなたと同じ蜘蛛だったのよ」
蜘蛛は驚いて、目を見開きます。
「でも、あなたのように蝶を憎んだりつかまえたりして食べてしまうことは、絶対しなかった。蝶と一緒に、楽しく暮らしていたの。だってそうでしょう。もとはみんな蜘蛛だったんですもの。時には、蝶を助けてあげたり守ってあげたりしながらね。そして、神様がもう蝶になっていいと認めた蜘蛛だけが、美しい蝶になっていったの」
「そ、それは、本当かっ!」
「ええ、本当よ。でも、あなたのようにこんなひどいことをしていたら、決して蝶にはなれないわ。ずっと、みにくい、蜘蛛のままよ」
アゲハ蝶は、強く、きっぱり言いました。
蜘蛛は、しばらく考えこんでいました。
そして・・・。
スルスルスルー。
蝶たちをつかまえていた蜘蛛の巣を、ほどき始めました。
「よし、これで終わりだ。お前たちを自由にしてやる。でも、今言ったことは、本当だろうな」
蜘蛛は、アゲハ蝶をにらみつけて言いました。
「ええ、もちろん」
アゲハ蝶は、また、きっぱりと言います。
「わかった。お前を信じよう。でも、もし嘘だったら、おれはお前をすぐに喰ってしまうからな」
自由になった蝶たちが、菜の花畑に向かって森の中を飛んで行きます。
そして、その下を、蜘蛛がものすごい勢いで走っています。
「おい、あんな嘘をついて大丈夫なのか。もし、嘘だとわかれば、お前は蜘蛛に殺されてしまうんだぞ。いや、お前だけじゃない、菜の花畑の蝶たちみんなが・・・」
アゲハ蝶に、お兄さんがささやきます。
「でも、ああ言わなければ、私だけでなく兄さんたちみんなも、あの場で殺されていたわ」
遠くから、細い光がさしこんできました。