その四
アゲハ蝶は、驚いて振り返ります。
「兄さん!」
そこには、蜘蛛の巣にからまり、羽を広げたままのアゲハ蝶のお兄さんがいました。
「どうして来たんだ!ここに来ることは、死ぬことと同じなんだぞ!」
「兄さん!」
アゲハ蝶は、お兄さんのところへ飛んで行きます。
「来るんじゃない!そばに来れば、お前も蜘蛛の巣にからまってうごけなくなる」
アゲハ蝶のお兄さんは、激しく頭を振って叫びました。
「フッ、フッ、フッ。兄さんを助けにこの森へ来たのか。なかなか勇敢だな。ちょうど腹もへってきた。どうれ、元気のよさそうなお前から食べるとするか」
蜘蛛は、木の枝に糸で体をぶらさげ、ユラリ、ユラリ、不気味に笑いながらアゲハ蝶へと近づいてきます。
「フッ、フッ、フッ」
「まてっ!」
アゲハ蝶のお兄さんが叫びます。
アゲハ蝶は、まるで、本当に蜘蛛の巣にからまってしまったかのように、身動きできなくなりました。
「フッ、フッ、フッ」
蜘蛛は、ますます気味悪く笑いながら、とうとう、アゲハ蝶の目の前までやって来ました。
アゲハ蝶は、また気が遠くなりそうになりました。
でも、勇気をふりしぼり、
「まって、私を食べてもいいけど、その前にひとつだけ、聞いてもいいかしら」
何かを覚悟したかのように、力強く言いました。
「なんだ!」
「ねえ、蜘蛛さん。どうしてあなたは、私たち蝶をつかまえて食べてしまうの?」
「フッ、フッ、フッ、そんなことか。それは、お前たちがうまいからさ。それに、お前たちが美しいから・・・」
ふと、蜘蛛が声をつまらせました。
「美しいから・・・?何故美しいと食べてしまうの?」
「フン!そんなこともわからないのか。おれの姿を見ろよ。お前だって、おれを見たとき驚いていただろう。そう、みんなが驚くくらい、おれの姿はみにくいんだ。だから、こんな暗い森で隠れるようにして生きていくしかない、お前たちのように、太陽の下で、楽しく、幸せに、生きていくことはできないんだ」
そこまで言うと、蜘蛛は、だまりこんでしまいました。
アゲハ蝶は、おそるおそる、蜘蛛の顔をのぞき込もうとします。
「だから・・・、だから・・・、おれは、お前たちが憎くてたまらないんだ!」
「さあ、これでわかっただろう。喰わせてもらうぞ」
蜘蛛は、アゲハ蝶めがけて巣を飛ばそうとかまえます。