その十六
「蜘蛛さーん、蜘蛛さあ〜ん!」
「蜘蛛さーん、どこにかくれているのー」
蝶たちが、蜘蛛をさがしています。
いつもなら、こんな雲ひとつないお天気の日は、蜘蛛は誰よりも早く起きて、空に向かって巣を飛ばしているのです。
でも、今日は、どこにも蜘蛛の姿が見あたりません。
「どうしたのかしら・・・」
アゲハ蝶も、必死でさがしています。
(もしかしたら・・・)
アゲハ蝶は、突然、不安になりました。
(そう、もしかしたら、蜘蛛さんは、私が嘘をついていたことを知って・・・)
アゲハ蝶は、黒い森へ向かおうとしました。
その時ー。
「キャー!」
叫び声がー。
蝶たちは、声の方へと向かいます。
「あっ!」
みんな、思わず、息をのみました。
「−!」
アゲハ蝶も、声が出なくなりました。
そこにはー。
数えきれないほどのすずめバチが、蜘蛛の巣にからまり、死んでいました。
そして、その中に・・・。
何本もの毒矢を体につきさして、蜘蛛がぐったりと横たわっています。
そうです。
いつかのしかえしに、すずめバチたちは、真夜中に集団で蜘蛛をおそったのです。
そして、蜘蛛はたったひとりで、すずめバチと戦ったのです。
「蜘蛛さん、しっかりするんだ!」
アゲハ蝶のお兄さんが、毒矢をぬきとりながら、蜘蛛によびかけます。
でも、蜘蛛は、身動きひとつしません。
「だめだ、死んでいる・・・」
アゲハ蝶のお兄さんが、ふるえる声で言いました。
「そんな・・・、嘘でしょう・・・」
アゲハ蝶には、目の前の光景が信じられません。
これが夢であってほしいー、そう願いたい気持ちでした。
でも、それは、まぎれもない現実ー。
目の前の蜘蛛は、瞳を閉じたまま、身動きひとつしないで・・・、お兄さんが言ったとおり、死んでいます。
「蜘蛛さん、おきてよ。また、巣を飛ばしてよ」
「ねえ、蜘蛛さん、また一緒にみんなと遊んでよ」
「蜘蛛さん、蜘蛛さん」
蝶たちが、必死で蜘蛛によびかけます。
蝶たちは、みんな、蜘蛛が死んだことを信じたくない、その気持ちは、アゲハ蝶と同じです。
「菜の花の精の葉を、もってきたわ」
モンシロ蝶が、静かに葉を蜘蛛にかぶせます。
まわりを金色にそめて、菜の花の精の葉が輝きました。
(お願い、蜘蛛さん。目をあけて)
(菜の花の精さん、お願いです。蜘蛛さんを生きかえらせて下さい)
蝶たちは、みんな祈ります。
けれど、蜘蛛の瞳はかたく閉じられたまま、開くことはありませんでした。