その十五
ブーン!
菜の花畑を見下ろす山の中。
不気味な音が、ひびいています。
その音は、黒いかたまりからー。
黒いかたまりは、菜の花畑をにらみつけているようです。
「おぼえていろよ」
「あの時のうらみは、必ず、はらしてやるからな」
不気味な音にまざって、そんな声が聞こえてきます。
ブーン!
黒いかたまりが、ゆっくりと山をくだりはじめました。
菜の花畑の平和な夜。
蜘蛛は、ぐっすりねむっています。
「おーい!」
「ぼうや・・・」
どこからか、なつかしい声が聞こえてきました。
「誰?」
蜘蛛は、まわりをキョロ、キョロ。
「あっ!」
蜘蛛の顔を、まぶしい光がてらします。
蜘蛛は、思わず、目を細めます。
やがてー。
目がなれてきたのか、光の中に何かが見えてきました。
「あっ!」
蜘蛛はまた、驚いて声を上げます。
そこには、蜘蛛のお父さん、お母さん、そして仲間たちが、笑顔で蜘蛛に手をふっています。
「お父さん、お母さん・・・、みんな・・・」
蜘蛛は、嬉しくなりました。
そして、みんなのところへ、かけ出しました。
でも、蜘蛛がみんなに近づけば、それだけみんなは離れていきます。
蜘蛛は、できる限りの速さで走りました。
けれど、みんなとの距離は、ちっともちぢまりません。
ほんの少し走れば、すぐにたどりつけそうなところに、お父さんもお母さんも、そしてみんなもいるのに・・・。
こっちへおいでと笑顔で手をふっているのに・・・。
「どうして・・・、どうして、ボクは、みんなのところへ行けないの・・・」
蜘蛛は、悲しくなりました。
「おとうさあ〜ん!おかあさ〜ん!」
蜘蛛は、大きな声で叫びました。
「あ・・・、あれっ?」
蜘蛛は、自分の声で目がさめました。
「なんだ・・・、夢か・・・」
蜘蛛は、自分で自分が、少し照れくさくなりました。
自然に、笑みがこぼれます。
と同時に、むしょうに、どうしようもないくらい、悲しくなりました。
「お父さん・・・、お母さん・・・」
蜘蛛の瞳から、涙がこぼれおちます。
蜘蛛は涙をぬぐい、星が輝く夜空を見上げました。
でも、蜘蛛の瞳にとびこんできたのは、美しい星空ではありませんでした。
(−!)
蜘蛛が、声を出す間もなく、
ビュン!
風を切る音が、しました。