その十四
お日様が西へかたむき、あたりはしだいに暗くなってきました。
蜘蛛とアゲハ蝶のお兄さんが、菜の花の中に身をひそめ、じっと、黒い森を見つめています。
アゲハ蝶のお兄さんの手には、すずめバチの毒矢が握られています。
「蜘蛛さん、さっき、妹が言っていたことなんだけど・・・」
お兄さんが、蜘蛛に小声でたずねます。
「いいんだ、何でもないんだよ・・・」
蜘蛛は、静かに頭を振りました。
その時ー。
シュル、シュル・・・。
黒い森から、気味の悪い音が聞こえてきました。
「来たぞ」
蝶たちは、菜の花の陰で息をひそめます。
ガサッ!
黒い森から、蛇が、うろこだらけの細長い体をあらわしました。
口から、何かを探しているかのように、赤い舌をチロチロと出しています。
「キャー!」
そのおそろしい姿に、何匹かの蝶たちが逃げようとしました。
「だめよ!逃げちゃ」
アゲハ蝶は、力強く飛び立つと、蛇に向かって行きます。
「バカな蝶もいるものだ」
蛇はニヤリと笑うと、思い切りのびあがりアゲハ蝶に向かって、大きく口をあけ、牙をむき、赤い舌をのばします。
その舌が、アゲハ蝶をとらえようとした時、アゲハ蝶は急降下。
蛇は慌てて、アゲハ蝶を追い、さらに舌をのばします。
すると、次々に蝶たちが飛んで来て、蛇をバカにしたように、急降下と急上昇を繰り返し、蛇をいらだたせます。
「くそっ!」
蛇は、必死になって、体をくねらせ蝶たちを追います。
そして・・・。
蛇は、菜の花の中に身をひそめていた蜘蛛に気がつきました。
「なあんだ、突然、森からいなくなったと思ったら、こんなところにいたのか。どうれ、まずは、お前からいただくとするか」
蛇はそう言うと、今度は、蜘蛛目がけてその気味の悪い赤い舌を。まっすぐにのばしてきました。
「蜘蛛さん、今だ!」
アゲハ蝶のお兄さんが、叫びます。
パーン!
蜘蛛が、巣をはきました。
「うわー!」
蜘蛛の巣が、蛇の両目をふさぎました。
「目が、目が、見えない」
蛇は、大きく口を開け、激しく頭を振ります。
「みんなのかたきだ!」
アゲハ蝶のお兄さんが、大きく開いた蛇の口めがけて、すずめバチの毒矢を投げこみました。
グサッ!
毒矢は、見事に、蛇ののどにつきささりました。
ドサッ!
大きな音をたてて、蛇が地面にたおれます。
しばらくの間、蛇はもがき苦しんでいましたが、やがて、動かなくなりました。
「やったー!」
「かたきをうったぞ!」
蝶たちが、歓声を上げます。
その後ろで、蜘蛛が、静かに涙を流していました。