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Mari&Golds  作者: 田中 友仁葉
1章
3/14

第二章「風と共に去りぬ」

続きです。


更新ペース遅いかも…


これでも忙しいのです。

帰りが結構遅くなってしまった


話もしたいし、女の人を一人にするのも気が引けるので彼女と帰ることにした。


「ねえ、折本さん。」


「なに?」


…あ、ヤバイ。

声掛けてみたけど、ネタがない。


えーと…


「気を遣って話さなくてもいいよ♪」


逆に気を遣われた…


ほんとに人が変わるようだな。


これが営業スマイルだなんて、どれぐらい演技を続けていたのだろう。


「いや、あのさ。その…演技を始めたのって何時から?」


遠回しの聞き方だったが何とか伝わったようだ。


「そうだねー。お母さんのお葬式ぐらいからかな?」


「え、お母さんって亡くなってるの?」


酷く驚いたが、この体質のせいでつまらなそうに聞く形になる。


「うん、お父さんとは別居してて、今はアニキと暮らしてる。」


「悲しくないの?」


自分で言ってハッとした。

もし僕が彼女の立場なら耐えられないだろうな。


それこそ本当に人が変わるくらい。


「…ねえ。悲しいってどんな感じなの?」


そんなこと考えたこともなかった。

感情を言葉にするのは難しいかもしれない。


「うーん…自分をかくしたくなって、目の前が白くなって、不安で仕方がなくなる…」


「不安…?」


相手が相手だと、なお難しいな…


********


帰宅して暫く経った


彼女は思ったよりも家が近いようで、気が向いたらまた来たりするかもと言っていたからすぐに会うことになるだろう。


…ふと、本棚に隠れていた「人間失格」が目に入った。


中学の時にカッコ付けだけのために買った本だったけど、まだ残ってたようだ。


何と無くそれに手を伸ばす。


内容はやっぱり理解出来ない。


イケメンで勉強が出来てクラスの人気者でモテるのに、どうして自分のことを人間失格だなんて表現するのだろう?


…やはり人間らしい感情を持っていないから?


なら彼女は?


やっぱ自分を人間失格と思っているのか?


第一の書記を読み終えたところで本を置く。


さすがに、一気には読めないと判断した。


…時計は19:04と光っている。


部屋の外からはソースの焦げるいい匂いがしている。今夜はハンバーグのようだ。


そろそろお腹も空いたしリビングに行くことにしよう。


********


「そういやさ、この間の手紙のセイメルさんって誰なの?」


姉がハンバーグの付け合わせのキャベツをむさぼりながら聞いてきた。

ヤギかお前は。


「あーうん、小学生の頃にカナダに行った時のホストファミリーの人。妹持ち。」


「へー。遠いとこからご苦労さんだね。」


ふと、姉が悲しそうな顔をする。


「あのさ…過去引っ張っちゃうの大丈夫?」


僕は何食わぬ顔で返事する。そもそも表情は動かないけど。


「うん、姉ちゃんに心配されるほど苦しくないよ。」


まったく姉は変なところで気遣いだ。


「じゃ、わたしのトマトあげる。」


姉はトマトを箸で僕の皿に載せた。

まったく姉は変な方法で気を遣う。


*********


翌日、外に出ると折本さんが笑顔で立っていた。


顔を合わせて数秒の沈黙。


先に口を開けたのは彼女だった。


「おはよ!五百蔵くん!」


「あ、あーうん」


やはり少し困ってしまった。


*******


何か彼女が楽しめるようなヒントを見つけるため、登校しながら色んなことを聞いた。


朝は苦手だということ。

読書が趣味だということ。

太宰治は暗い作家じゃないということ。

国公立大を目指していること。

その他普通の学生のような話を。


「ねえ、やっぱつまらない?」


彼女は当たり前の答えのように笑って答えた。


「うん、全然!」


なぜ笑えるんだ…?


「そっか…難しいな。」


「じゃあさ!今度デートしよ!」


…なんか急にすごいこと言われた気がする。


「…え?デート?」


「うん!別に付き合ってなくてもデートはできるでしょ?異性同士で買い物したり食事したりするだけじゃん!」


それもそうか。


別に付き合うわけじゃないんだ。


なんか…いや…


「うーん…」


複雑な気分。


********


彼女と別れて教室に入った。


時間的にももうチャイムがなるだろう。

宮本くんに挨拶だけ済ませて、席につく。


相変わらずの教室。

このまま何もなければ良いのだがすぐさま裏切られることになった。


先生と共に、金髪美少女が入ってきた。

ざわめく教室。

ため息をつく僕。


彼女は僕の方を見て微笑んで小さく手を振った。


僕はすぐさま目を逸らす。


ほら、男子の目が怖い。


先生はクラスの騒がしさを抑えてから彼女に自己紹介をするよう伝え、答えるように彼女は頷き黒板に名前をカタカナで書いた。

そしてあどけない片言で話し始めた。


「みなサン、初めマしテ。セイメル・ティラビスデス。カナダからキマシタ。わからないコトがアレバ、なんでもキイテクダサイ。」


逆だよ、逆と言いたくなるのを我慢する。


エッヘンと大きな胸を張るセイメルさん。これまた成長してらっしゃる。


名前が書かれた黒板を見る。


…セイメル・ティシビス


『シ』じゃないです。

『ラ』です、『ラ』。


そして、転校生に対する先生の言葉定番

「というわけで仲良くしてあげて下さい。じゃ、ティラビスさんはそこの空いてる席で。」


そこは僕の席よりも三席ほど離れたところだった。


セイメルさんは席に移動するときにこちらにウインクをしてきた。


外国か。


********


休み時間、予想通りの展開だった。


セイメルさんが他の生徒を掻き分けてこっちに来た。


「Hello,Seiya!ヒサシブリ!来ちゃったヨ〜!How are you?元気にしてた?」


彼女は僕に言葉を使わせる暇も与えず話し続ける。

突然、金髪美少女転校生が馴れ馴れしく話し始めると他の男子は突っかかってくるわけで。


「おい五百蔵!なにイチャイチャしてんだよ!」

「お前がそんなやつだとは思わなかったぜ!」

「お前とセイメルさん、どういう関係なんだよ!付き合ってるのか!?」

「なに満更でもない顔してんだよぉ!」


なんかすごい。軟派体性男子は嫉妬をここまで表現するのか。


あと四つ目のやつには是非とも表情が動かないことを伝えたい。


「シャラップ、ウルサイ!ワタシとSeiyaは付き合っテルノ!」


「え!?ちょ、セイメルさん!?」


一応言うが、セイメルさんとは付き合ってないし、むしろ付き合えるのなら美人だしとても嬉しい。

しかし、なんだ?一体どういう…

「どういうことなんだ!五百蔵!」

「付き合ってるのか!?どこまで!」

「不順異性交遊だぞ!このやろ!」

「羨ましい!」


最後の一人は他の男子の代弁をしたようだ。


そこで、助けに手を伸ばしてくれたのは


「おい!静かにしろ!転校生を戸惑わせてどうする!」


「み、宮本…?」


宮本くんだった。


恋愛沙汰には興味のない宮本くんにとっては、このような激しい嫉妬は見苦しいのだろう。


周りの男子は席を離れて行った。

さすが、優等生。


「ありがとう宮本くん」


「アリガトです。」


「いや、いいんだが。2人はどうして知り合いなんだ?」


そうか、宮本くんにはまだ伝えていなかった。


セイメルさんが伝えようとしたけど、そこを制して僕が伝えることにした。


*********


セイメルさんが僕のホストファミリーだったということを聞き、納得するように頷いた。


「なるほど、でもなんで五百蔵はカナダに行ったんだ?」


「うん、ただの留学。成績はいい方だったけど、まだ足りなかったから」


「そうか、ここ偏差値高めだからな。しかし…」


宮本くんは少しニヤついて言葉をつないだ。


「2人は付き合ってるのか。」


「え。」


つい声が出た。感情のこもってない一音が。


「違うよ、ねえセイメルさん」


「Eh!?Seiyaはそんな冷たくなってシマタの!?」


「ちょっと待って。セイメルさん、『付き合う』ってどういう意味か知ってる?」


彼女は迷わず答えた。


「イエス、『Friendship』のことダヨネ?」


「いや、違う。」


「Eh!?」


あとで日本語を教えてあげよう。

昔よりは上手くなったのはわかるけど。


「付き合う。つまりLOVEに近い感じ」


「!?」


宮本くんと僕はため息をつき、向き合った。


「つまり、勘違いか。」


「イエス!イエス!」


そこまで拒絶されると萎えるな。


*******


僕から離れても、彼女は休む口がない。


今やクラスの注目される人物となっており、お近づきになろうとする男子、女子が絶えない。


ああ、昔の僕もこんなだったのかな?


そう思いに更けていると肩を叩かれた。


折本さんだった。


「あの子転校生?可愛いね!美人だしスタイルいいし、年上にしか見えない!」


「間違いないね。」


実際年上なのだ。

彼女は僕が小学生の頃から頭が良くなかった。それもかなり。


だから、一つ学年が上のはずの彼女がこのクラスに来たとき、悟った。

高校浪人を。


「Oh!Seiya!このコcawaii!付き合ってる?」


新しく覚えた言葉を何と無く使い始めたか。


「違うよ、ただの友達。ふれんど。」


「こんにちわ!折本 夕凪です!B組だからクラス違うけどよろしく!」


「Oh!Seiyaのトモダチなら私のトモダチデス!セイメルです!ゴヒーキニー!」


「ご贔屓に」ってどこで覚えたんだよ。


まあ、とりあえずセイメルさんは感情豊かだし、いい見本になってくれるだろう。


********


「Oh…ニホンの学生は学校掃除しなきゃならないデスカ…」


セイメルさんがボヤく。

転校初日から掃除当番で萎えるだろうそりゃ。僕もだけど。


「カナダでは、生徒で学校掃除しないの?」


「イエス。むしろニホンだけデス。どこまでサービスカントリーなんデスカ全く。」


2人っきりの教室。

日は傾いてオレンジの光が入っている。

折本さんは先に帰ったようだ。


だからと言って恋愛沙汰はないだろうが。


「Seiya。なんか久々で変わりマシタ?」


「なにが?」


急に心配そうな顔で聞かれたので、少し戸惑う。


「だって昔はモットリアクションがオーバーで…」


『昔』…か…


「Seiya…まるでチガウ人みたいデス…」


『違う人」…


やばい、やめてくれ…


これ以上問われると…


「ホワイ…?Seiyaの彼女はどうシタノ?ナンデ居ないの?」


『彼女』


それを耳にした瞬間に激しい眩暈と頭痛が起こった。


立ってられなくなり、息を切らせながら四つん這いになる。


「Seiya…?」


あの時と同じだ…


あの時も…問われた…


『静夜…どうして…?』


激しい嘔吐


遠くでセイメルさんの悲鳴が聞こえるけど、苦しくて構ってられない。


とにかく吐けと自分に指示を出す。


胃の中が空っぽになっても、胃液を出し搾る。


そして、そのまま気を失った。

僕の名前を叫ぶセイメルさんの残響を聞きながら。


*********


目が覚めると、そこは薬の匂いがする白い天井の部屋…というわけではなく、自宅の部屋にいた。

まだ少し胃がピリピリする。


「起きたか、良かった。」


隣を見ると宮本くんが椅子に座ってこっちを見ていた。


「あ、うん…ごめん心配かけて」


そう謝ると宮本くんは首を横に振った


「あの症状をみてお前を咎めるやつは居ないだろう。少し待っていてくれ、五百蔵のお姉さんを呼んでくる。」


宮本くんはそう言って部屋を出て行った。

すると交代するように、折本さんが入ってきた。


「…折本さん。」


「…昔、笑っていた頃に何かあった?」


「うん、正確には笑えなくなった直後だけど。」


折本さんは目の中が空っぽで眈々と話してくる。


「…私は辛いとかわからないけど、苦しいのなら無理しなくてもいいと思う。」


「…うん」


丁度話の区切りで姉ちゃんと、何故かセイメルさんが後ろに隠れるように入ってきた。


「おー気がついたか〜。友達に心配させといて。全く。」


宮本くんと全く真逆のことを言っていて、すこし可笑しい。


「姉ちゃんが送ってくれたの?」


「そうだよー。最近運転免許取って正解だったよ。こないだまでは、学校に泊り込みだったし。」


そこまで言うと、姉ちゃんはセイメルさんの背中を押した。


「ほら、言いたいことがあるんでしょ?」


そう言われるとセイメルさんはぼくの前に来た。

まぶたが赤く腫れている。


泣き疲れたか寝不足か。

まあ前者だろう、


「セイメルさん…」


彼女は上ずった声で話し始めた。


「….ごめん、Seiya。ワタシニホンゴ苦手だから…ワタシFoolishだからちゃんと気持ちわかりなくて…」


「…。」


セイメルさんは悪くない。

でもそんなことを言うと今度は彼女が気に病んでしまうかもしれない。


「でも、Seiya.ワタシあなたのスマイルが見たい。どうして笑えなくなったかワタシに教えて?」


「…難しい話になるかもしれないよ?」


すると彼女は笑った。

整った眉毛は下がっており、作り笑いなのは折本さんと比べてもバレバレだが、彼女なりの気遣いなのだろう。


そして高らかに言った。


「問題ないデス!バカはバカなりに理解しマース!」


ようやく出せたセイメルさん。

これだけは好みで出させていただきました。


金モザ?面白かったですね。でもなんでそんなことを?

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