epilogue-the end
エピローグです。
〝ノアの箱舟〟の〝出航〟から一年が経った。
地上の除染作業が終わった頃だ。
「不知火代表、そろそろ」
浦沢が声を掛けて来た。
「ああ、私もそう思って居た頃だ。〝ノアの箱舟〟代表として命じる。地上視察部隊を向かわせろ」
「分かりました。直ぐに向かわせます」
私は制御盤でシェルターの蓋を開け、地上視察部隊を向かわせた。放射線量等を測らせ、人間が地上で暮らせるか確かめさせる為だ。
暫くして、地上視察部隊が帰って来た。彼等の報告は驚くべき物だった。
「想定外の事態が起きました。放射線量が迚もじゃないが人間の過ごせる程度じゃない」
「如何言う事だ。放射性物質除去装置は機能しなかったのか」
「いえ、其れは機能して居た様なのですが……其の除去能力を遥かに超える放射性物質が残留して居た様です」
「何だと……如何言う事だ。
浦沢君、計算では完全な除去は可能だったのだろう?」
「ええ、間違い有りません。何度も計算して確かめましたし」
「と為ると……」
頭が回転する。考えられる可能性は何だ。何故計算以上の放射線汚染が起こって居るんだ。
放射性物質の量が多い。此れが鍵ではないか。いや然し、確かに各国は核兵器の所持量を発表して居た。
いや待てよ。其の発表が正しかったとは限らないじゃないか。そうだ、各国が嘘の発表をして居たとしたら……本当はもっと多くの核兵器を所持して居たとしたら……。
合点が行った。矢張り、人間は醜かった。核兵器保有国は嘘を吐いて居たのだ。発表通りの核兵器の廃棄等して居なかったのだ。
汚い人間を信じた我々の自業自得なのか。
資本を以て〝乗組員〟に潜り込んだ者が居たから罰が当たったのではないか。
いや、違うな。
我々が、私が、驕って居たのだ。
神に為ろう等と考えて居たのがいけなかったのではないか。
何だ、正に〝バベルの塔〟じゃないか。
神に為ろうとした人間に、神からの本当の罰が与えられたのだ。
我々の不穏な空気を感じ取ったのだろうか。〝乗組員〟の間で諍いが起こり始めた。〝一体如何言う事だ〟等と罵声が飛んで来るのが聞こえる。端から見て居ると話が全く噛み合って居ない。
其れは丸で、怒った神に拠って言語をバラバラにされたノアの一族の如く。
人類の滅亡は決定的だ。此れで完全に人間に拠る汚い世界は滅びた、と言う事か。
シェルター内の食料が尽き、我々が死に行くのもそう遠い事ではないだろう。
扨、私の、そして人類の残り少ない寿命。何をして過ごそうか。
以上で『ノアの箱舟』は完結です。
個人的に気に入っているラストです(笑)。
お付き合い頂きありがとうございました。