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the end of the plan

第三章です

 最初に浦沢から社長室に電話が在ってから五年。

 其の時に彼の提案した計画は、最終段階に在った。

 六ヶ月程前から私と浦沢は最終調整の為、電話ではなく直接会って話をする様に為って居た。だから当然互いの顔は見知って居たし、五年の付き合いだ、関係も良好だった。

「不知火社長……いえ、代表、御報告します。〝乗組員〟は全員〝ノアの箱舟〟に乗り込みました」

 浦沢が報告して来て呉れた。詰まり、我が社の造った核シェルター内に、生き残る人類として選ばれた人達が全員入った、と言う事だ。

「分かった。ではシェルターを閉ざそう」

 〝ノアの箱舟〟の代表は、暫定代表で在った浦沢から私に為って居た。創始メンバーでもない私が就任するのは気が引けたが、浦沢や他の創始メンバーから年齢、経験、計画への貢献度、判断力等から私が適任だと指名され、断り切れる雰囲気でもなかった為、私が引き受ける事と為った。

 敢えて私の意思から就任理由を加えるとすれば、私が責任を負いたいと思ったから、だろうか。〝ノアの箱舟〟の創始メンバーは皆未だ若い。詰まり、此の先の人生が私より長い。そして、本当の汚れを知らない。我々は此れから人類の99.99999%を殺すと言う途轍も無い規模の汚れ仕事を行おうとして居る。当然、其れに因って受けるショック、感じる責任も小さくはないだろう。そんな物を汚れる事に慣れて居ない前途有る若者達に背負わせたくはない。此の汚れ仕事に因る重責を背負うのは、汚れ仕事に慣れ、汚れに染まり切って居る私丈で十分なのだ。

 手元のシェルターの制御盤を操作し、シェルターを完全に密封させる。此れで約一年、此のシェルター内に人は入れないし、出る事も出来ない。〝ノアの箱舟〟は完全に閉じられた。

「シェルターは閉じた。扨、後は核兵器発射のスイッチを押す丈だ」

 浦沢に向かって言う。

「分かりました。然し、此の儘黙って発射と言うのも味気無い物です。全〝乗組員〟に向けて代表に簡単な挨拶の一つでもして頂ければな、と」

「あ、挨拶か……急に言われると困るな。何も考えて来てないよ」

 微笑を携えながら言う。

「不知火代表なら大丈夫ですよ。貴方の頭の回転の速さなら、簡単な挨拶文を考える位容易でしょう」

 浦沢も僅かに笑いながら言う。

「……分かったよ。余り期待はしないで呉れよ」

「ええ、シャ○・アズナブルやクワ○ロ・バジーナの演説並みの挨拶を期待して居ります」

「だから期待はしないで呉れよ……と言うか二人とも同一人物じゃないか」

「細かい事は御気になさらず」

「……分かった。じゃあ此処、メインスペースに〝乗組員〟を集めて呉れ」

「ええ、御任せ下さい。代表は其の儘御待ちを」

 そう言うと、浦沢は放送設備の在るメインスペースのステージ下手側の奥へと入って行った。

 因みに、今私が居るのがメインスペースのステージの上手側だ。シェルターの制御盤、放射性物質除去装置の作動スイッチ、そして此の計画で最も重要な核兵器発射スイッチが置かれて居る。

『〝ノアの箱舟〟の〝乗組員〟の皆様に伝達致します。〝ノアの箱舟〟は全ての〝乗組員〟を収容しました。間も無く〝ノアの箱舟〟の〝出航〟と為ります。セレモニーを行いますので、如何かメインスペースへと御集まり下さい』

 浦沢のアナウンスだ。

 〝出航〟か。上手い事を言った物だ。其の真の意味は〝一度地上を滅ぼす〟。勿論、〝乗組員〟全員が其れを知って居るが、敢えてぼやかして言ったのだろう。

 アナウンスの直後から続々と人が集まって来た。

 数分して再び、

『間も無く、〝ノアの箱舟〟の〝出航〟セレモニーを開始致します』

と、浦沢のアナウンスが流れた。恐らくメインスペースに集まった人数を見てアナウンスしたのだろう。

『皆様御集まりの様なので、只今より、〝出航〟セレモニーを開始致します。セレモニーと言っても短く簡単な物なので、皆様、どうぞ御気を楽にして御過ごし下さい。

 では先ず最初に、我々〝ノアの箱舟〟の創始メンバーを御紹介致します……………………』

 〝ノアの箱舟〟創始メンバーの名前が読み上げられて行く。私の知り合いと為った名前、聞いた事丈は有る名前、全く知らなかった名前が無秩序に並ぶ。そして最後に、

『……………………そして私、浦沢。以上、〝ノアの箱舟〟創始メンバーでした』

と自分の名前を名乗り、創始メンバー紹介は終わった。

『続いて、〝ノアの箱舟〟不知火代表より御挨拶です』

 ……私の出番だ。正直、何も考えて居ない。

 ――ふっ。

 心の中で笑う。まさか地上を一度滅ぼす直前の挨拶が、一切下書きの無い完全なアドリブに為るとは。

 ステージの真ん中には演説台が在る。其処へステージ上手から私が歩いて向かう。

 マイクを口許へ。扨、何を話そうか。

『〝ノアの箱舟〟の〝乗組員〟の皆さん、こんにちは。〝ノアの箱舟〟代表、不知火です。

 先ず、此の計画を考え付き、実行に移す迄に昇華させた、〝ノアの箱舟〟創始メンバーに心からの賞賛を送りたいと思います。皆さん、拍手を』

 メインスペースが拍手の音で埋め尽くされる。

 或る程度拍手が収まってから、再び言葉を紡いで行く。

『皆さん御存知の通り、此の計画は汚れた世界を一度リセットし、崇高な理念の下、新たな美しき世界を創り直そう、と言う物です。皆さんは美しい心の持ち主で在ると認められ、選ばれた方々です。選ばれた事を誇り、然し驕る事無く、そして新たな美しき世界を創る為に、共に尽力して行きましょう。

 皆さんの此れ迄の御協力に感謝し、此れからの助力を御願い申し上げます。

 では皆さん、間も無く〝ノアの箱舟〟は〝出航〟します。新たな歴史の創造の瞬間を共に生きましょう』

 言葉を紡ぎ終わった。もう言葉は出て来ない。終わろう。

 演説台から一歩下がり、礼をする。

 拍手が巻き起こった。

『以上、不知火代表の御挨拶でした。では皆さん、〝ノアの箱舟〟の〝出航〟と行きましょう』

 浦沢がアナウンスし、歓声が起こる。

 浦沢がステージの奥から出て来た。

「代表、見事な演説でした。誰一人として彼の演説が即興だったとは思いませんよ」

 微笑みながら浦沢が言う。

「有り難う。演説ではなく只の挨拶だけどね」

 私も軽く笑って返す。

「扨、〝出航〟のカウントダウンは代表に御任せしましょうか。私はスイッチの所で待機して居ますね」

「いや、カウントダウンは君がすると良い。スイッチは私が押そう」

「えっ、でも矢張りカウントダウンの様な表に立つ目立った仕事は代表が行われた方が良いのでは?」

「スイッチを押したいんだ、私が。世界を一度滅ぼすと言う、神に為った感覚を味わいたいのさ」

 微笑みながら言う。

 ――嘘。

「成る程、そう言う事でしたら分かりました。私がカウントダウンを。スイッチは代表に御任せしますね」

「ああ。宜しく頼むよ」

 そう言って私はスイッチの在るステージ上手へ向かう。

 ――大量殺人の最終的な実行犯と言う業は、私が担えば良い。

『皆さん、御待たせしました。〝出航〟へのカウントダウンは私、浦沢が、スイッチは不知火代表が押されます。では皆さん、御唱和下さい。十、九、八、七……』

 浦沢のアナウンスと、〝乗組員〟に因るカウントダウンの声が響く。

 私はスイッチに手を掛ける。

『三、二、一……』

 ――私が押す。私が99.99999%を手に掛ける。

『零!!』

 〝出航〟の合図だ。

 私はスイッチを押した。

 ――99.99999%を、手に掛けた。

『皆さん。我々〝ノアの箱舟〟はたった今〝出航〟しました。新たな世界の始まりです。そして此れより一年後、我々は新たな世界を創って居る事でしょう。此れにてセレモニーを終了します。皆さん、有り難う御座いました』

 暫く続く大きな拍手。

 拍手が鳴り止むと、メインスペースに集まって居た人々が其々の自室へと帰って行った。

「大任、御疲れ様でした、不知火代表」

 浦沢が話し掛けて来た。

「いやいや、君こそ。見事なカウントダウンだったよ」

「有り難う御座います。恐縮です」「扨、此れから一年間待つ訳か」

「そうですね。そして一年後には私達が世界政府を作り上げ、新世界を創造します」

「世界政府、か」

「ええ。旧約聖書に肖って〝バベルの塔〟と名付けようかと」

「其れは又縁起の悪い名前だな」

 笑いを溢す。

「彼れは神の逆鱗に触れたから完成しなかったんですよ。今、其の神は私達です。完成させられますよ」

「そうか。其れもそうかもな」

「では不知火代表、今日の所はそろそろ自室に戻って休みましょうか」

「そうだな。おやすみ、浦沢君」

「おやすみなさい、不知火代表」

 こうして私達は自室へと帰って行った。

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