the plan on the way
第二章です。
社長室直通電話専用の音がした。此処三年で何度目だろうか。もう数え切れない。
「もしもし、不知火だ」
『浦沢です。準備は進んで居ますか?』
「当然だ。間も無くシェルターが完成する。住居、田畑等の各設備の設計は当然済んで居るし、シェルターの完成と同時に着手出来るだろう」
『流石です、不知火社長。放射性物質除去装置の開発の方は?』
「もう少しで完成、と言った所だ。君達の所の論文のレヴェルの高さの賜物だな」
『其れも貴社の技術力在ってこそですよ』
「ならば、何方も欠かせなかった、と言う事だな。
其方の方は如何だ?」
『順調です。〝ノアの箱舟〟の〝乗組員〟の選定も殆ど終わりに近付こうとして居ます。地球上に存在する核兵器の削減に於いてはテレビや新聞の報道で既に御存知なのでは?』
「ああ、そうだな」
浦沢の言う通り、アメリカ、ロシア、中国と言った大国が一年以内の核兵器の大幅な廃棄を決定し、其の他の核保有国は全ての核兵器を既に廃棄したと発表されて居た。
『我々の計算では、予定通りに核兵器が廃棄さえされれば丁度地上を一回滅ぼせ、且つ放射性物質除去装置が約一年で放射性物質の除去を完了させられます。
ああ、勿論、各核保有国の核兵器の発射を制御して居るコンピューターは既にハッキング済みで、何時でも此方が好きなタイミングで好きな目標に対し核兵器を発射出来る様にして在ります』
「そうか、分かった。然し……」
一度間を置いて大きく息を吸い、そして其れを全て吐き出す。
『然し、如何しました?』
「然し、其の昔、神話の時代に神の起こし給うた洪水を、まさか人で在る私が此の手で起こす事に為るとは思わなかったよ。自分が神に為った錯覚さえする」
『そうですね。でも実際、私達は旧い世界を破壊し、新世界を創造するのです。此の行為は神の所業に等しいとは思いませんか?』
「私達は破壊神で在り、創造神で在る訳か。其の通りだな」
浦沢に一つ、疑問を打つける。
「所で、心配事が一つ有る」
『何でしょう』
「〝ノアの箱舟〟の〝乗組員〟の選定に就いてなのだが」
『ええ』
「選定は誰がして居るんだ? まさか浦沢君が一人で遣って居るのでは在るまい?」
『ええ、私も多少は選定を行って居ますが、私の仕事のメインは〝ノアの箱舟〟全体の統率。選定は選定員が十数名程でやって居ります』
「其の十数名、信頼出来るのか?」
『……と、言いますと?』
「高額な資本を以て、力業で〝乗組員〟と為ろうとする輩も居るのではないか? 浦沢君は違うだろうが、富に目が眩み、そんな人間を〝乗組員〟にしてしまう選定員が居たとしても可笑しくない」
『流石、不知火社長は御聡明でいらっしゃる。確かに、我々〝ノアの箱舟〟の噂を何処からか聞き付け、資本を以て取り入ろうとする輩の存在は確認されて居ます。ですから其れは尤もな御心配ですが、如何か御安心を。我々も信頼、そして信用出来る選定員を選んで居ります。其の点に関しては私が神に誓って保証致しましょう』
「神に誓って、か。此れから神に為ろうとする人間の言葉だと思うと、何とも言えないな。自分自身に誓えば良いのだから」
笑いながら言う。
『御尤もですね、不知火社長。では、此れから神に為る人間の一人で在る貴方に誓いましょうか』
浦沢も笑いながら答える。
『扨、御心配は解消されましたか?』
「ああ、此れで安心して計画を進められるよ」
『其れは良かった。では今日の所は此の辺りで失礼致します』
「そうだな。御互いに確りと準備して行こう」
『ええ、勿論です。では』
「ああ」
こうして私達の会話は終わり、私は受話器を置いた。