わかったんだよ。
「ちょっと聞いて!小野崎くん付き合い始めたらしいよ!」
「うっそぉ~誰とぉ~?」
「それが…、日高柚麻らしいの!」
「はあ!?何それっ」
「あっ!来たよ!」
校門の近くに居た全員が、一斉にこっちを見た。
好奇心に溢れたその目は怖くて、私は思わず俯いた。
「気にすんなよ、柚麻。」
隣を歩く小野崎は、そう言って私の頭の上に手を置いた。
「…うん。」
恥ずかしくて頭がグルグルになった。
「あり得なくない?小野崎くんと日高柚麻の組み合わせ…」
「ちょっ聞こえるからやめなよっ」
「そうだよ、日高柚麻に何されるかわかんないじゃん!」
「…あそうだね;!」
聞こえてるんだけど…。
私は教室までの道のりの間にたくさんの人の陰口を耳にした。
「似合わない」「脅されてるんじゃないの」「小野崎が可哀想」
どうせ私が怖いから陰でしか言えないくせに。
馬鹿みたい…。
そういえば私、いつから“怖い”って言われるようになったんだっけ?
入学してからいつの間にか呼ばれるようになったな…。
しかもその日から何故かロッカーの上に引きこもってたっけ。
ぼーっとしていると1日というものは思っているより早く過ぎた。
「日高さんっ」
誰かに呼ばれて、振り向くと教室のドアのところに須藤が立っていた。
鞄を持って突っ立っているので、私も鞄を持って須藤の隣に行った。
そして、そのまま2人で廊下を歩いた。
朝は…小野崎と歩いてたか。
「小野崎くんは、いいの?」
須藤は不思議そうに言った。
「あんたが誘ったんじゃん」
“意味分かんないよ”って付け足して言った。
「…うん、そうなんだけどさ。」
須藤はそのまま俯いて歩いた。
チラリと前髪から除く目は暗かった。
何か考え事でもしてるのか…?
いつもはうさぎみたいに馬鹿みたいにうるさいくせに。
「日高さん、決めたよ僕。」
急に立ち止まって須藤ははっきりと言った。
「僕もう、日高さんに近寄らないようにするね。僕と一緒にいたら日高さん誤解されちゃうでしょ、小野崎くんにさ。」
ニッコリと笑って須藤は言った。
窓から差し込む夕日が須藤の髪を綺麗に光らす。
廊下にたった2人。
影が伸びていた。
「は…?」
そう言って、もう1度説明しようとしたら
須藤は俯いて「さよなら」って言って走って帰って行った。
私は頭がついていかなくて、追いかけることすらできなかった。
「俺と付き合えば凄くメリットがあるんだよ。」
小野崎は昨日、そう言った。
「本当の日高さんがわかるから。探してるんだろ?自分を。」
小野崎の笑顔は、いつも同じ。
その笑顔、苦手。
私の心の中を見透かされてる気がするから嫌いなんだ。
怖いんだよ、小野崎が。
ずっと気になっていた。
私の存在意味は何なの?何のために生きてるの?
生きている理由は?
須藤、言ったよね。
『世の中には“日高柚麻”っていう存在を必要としてる人はたくさんいるんだ。』
って、言ったよね?
そして私は、確かに須藤のことを信じることにしたんだ。
だけど…、こんな簡単に消えていくものなわけ?
気づけば床の上に涙が滑り落ちていった。
私…、泣いてるの?
ああ、泣いてるのか。
『だから1人だなんて思わないで』
そう言ったのは須藤でしょ?
なのに、何故。
結局は1人にするんじゃない。消えていくんじゃない。
皆、私の前から消えていくんでしょ?
私は冷たい廊下にぺたん、と座った。
ぼーっと前だけを見て。
須藤と出会ったあの日からの、須藤から受け取ったたくさんの言葉を思い出す。
脳内に須藤の言葉だけが再生される。
私は深く深く海に溺れている気持ちになった。
ぶくぶく…、沈んでいく。
助けてよ、ここから出して。
そして、ほんとの私の居場所に連れ出してよ。
ねえ…それが出来るのは須藤だけなんだよ。
私が信じれるのは須藤だけなんだよ。
気づけば私は、ひたすら泣いていた。
“泣いてる”って意識はあまりなくて
ずーっとずーっと、ひたすら。
感覚がおかしくなっちゃうくらい。
1人で声をあげて泣いた。
止めようとしても止まらなかった。
自然と溢れ出る涙は
これまでの気持ちがいっきに流れ出ていくようだった。
そのとき、ポケットに入れていた携帯が鳴った。
私はその着信音で我に返った。
『日高さん、ほんとの気持ちに気づけた?それだけで十分だよ。頑張れ。さよなら。』
小野崎からのメールだった。
私は携帯をポケットにしまい込んで
涙を拭って走り出した。
走れば、涙は止まる。
目指す方向なんて決まってるんだよ。
須藤、そこしかないから。