学校へ
「―ってことが昔合ったの。」
全て話し終えた私の頬には、うっすらと涙が流れていた。
“あの日”に流した、“あの日の私”に似ていた涙とは違う。
この涙は何だろうか
「周りの人達は結局、自分のことしか考えてなくて、嫌われてる人には絶対近寄らないで“人気者”が好きで、“日高柚麻”っていう存在はいらないんだな。って思ってた。そしたら生きる必要とか気に入られようとか必死になったり、勉強頑張ったりする必要もないような気がして、何もかもに無関心になっていった。」
ゆっくりと喋り終えて、涙を拭く。
そんな私を、須藤は黙ってずっと見ていた。
そして、しばらくして口を開いた。
「日高さん、僕はそうは思わないよ。世の中には“日高柚麻”っていう存在を必要としてる人はたくさんいるんだ。自己中な人はたくさんいるし、自分が大切なのは皆一緒だと思う。けど、必ずしも誰もが人気者になりたいから人気者と仲良くしている、ってことはないと思う。
僕はただ、日高さんと仲良くなりたいから、日高さんが好きだから、日高さんに近づいた。きっと他にもそんな人たくさんいると思うな」
須藤は真っ直ぐ私を見つめてきた。
―そうだよね、そうだよ。
もう学校が始まってる時間なのに、私が落ち込んでるのを察してわざわざ学校をサボってまでここに連れてきてくれるような、そんな優しい人間だっている。
そう考えると、涙がボロボロとこぼれきた。
生きることなんてどうでも良くて、無関心だったけど。
「ねえ須藤…私、ちゃんと生きてみようと思う」
すぐ傍の道路に静かに車が通る。
自転車を2人乗りしてはしゃいでる中学生。
静かな海に、須藤と2人。
風が吹いて髪が散らばって、海は輝いて。
―今のこの景色を胸に焼き付けて
精一杯“今”を生きよう。
「日高さん、元気出てよかった…!!今からでも遅くないよ、学校行こう。まずはそこから。」
須藤はもう一度私の手をしっかり握った。
幼稚園児が遠足に出かけるときにはぐれないように握るかのように。
きっとこれは須藤の優しさの1つ。
「須藤…私、行く。」
きっとロッカーの上で寝ていたのは
ずっと1人で殻に閉じこもって
裏切られたくなくて逃げてただけなんだ。
だけど、それは間違い…。
きっと変われる、人は、梓みたいな人達だけじゃないんだ。
須藤のような人だっている。
だから、私は変わる。変わってみせる。
私と須藤はしっかりと手を繋いで、電車に乗り込んだ。
―キーンコーンカーンコーン.....
学校に着いたとき、ちょうど1時間目が終わるチャイムが鳴っていた。
お互いに手を離して、門をくぐりながら汗を拭く。
「須藤…私この時間に学校へ来るの初めてな気がする」
そう言って須藤の顔を見ると、どこか遠くを見つめていた。
その顔は少し寂しげだった。
「須藤?」
私が声を掛けても反応なし。
無視というよりも、気づいてない感じ。
そのまま無言で歩いて、
私は5組、須藤は4組に入っていった。
ガラガラッ
勢いよくドアを開けると、それぞれの場所で休み時間を過ごしていたクラスの人たちが
一斉に私を見た。
そして口を大きく開けて驚いている。
「え…日高さん?」
「何で急に来てんだよ」
「どうしよう!怖い!!!」
「だって中学のとき暴力事件おかしたんでしょ…!?」
「何する気なの」
ざわめく教室。
ありもしない噂話をしているクラスの人達。
好奇心や恐怖心で溢れている顔。
―大丈夫、あの時の私じゃない。
もう逃げるだけじゃ駄目なんだ。
ゆっくりと席に着く。
鞄の中から教科書とかを出して、
その上で伏せた。
…変われる
変われる
変われる。
変われる…?