海
「日高さん」
と
私を呼ぶ声が聞こえた
何故か心が透き通るような
優しくなれるような。
「日高さん!」
―ハッ
「寝てた…」
目が覚めて意識がはっきりした私は、
目をこすりながら横を見た。
「日高さん、呼んでも起きないから死んじゃったのかと思って心配しました…」
ふぅ…とため息をつくのは須藤。
あ、そうか
須藤と待ち合わせ?してたんだっけ。
私は、私と須藤の間に鞄を置いて
そのまま床を見つめた。
「日高さん…今日この電車に乗ってと頼んだ理由なんだけ…」
私を見た須藤は口を開けたまま動きを止めている
「何」
今、誰の傍にもいたくない。
“あの夢”の後は誰とも会話したくないの―。
“誰も信じない”という自分の言いつけを守るため。
信じてしまいそうになっても、信じないから。
「何かあったの?」
眉を下げて、すごく心配そうに私を見ている。
少し明るめの髪の毛が光と反射して眩しい。
そんな彼は、今日までずっと私と同じ人間なんだと思っていた。
“嫌われ者だけど1人で生きると決めた”っていう。
だけどそれは勘違いだったみたいだ。
だって誰も須藤のことなんか嫌いじゃないもん。
前、不良たちに絡まれたりとかしてたけど
それは同時に“誰かが須藤を気にかけてる”って意味だと思うんだ。
それとは反対に、私は誰にも気にかけてもらってない。
「ねえ、日高さん」
返事をしない私に向かって心配そうに声を掛ける須藤。
ほら、優しいよね。
私の肩をポンッと触る、それだけで須藤が優しいのが分かる。
「なにもないから」
ぷいっとそっぽを向く。
分かってるよ、昨日まであんなに須藤と喋っていたのに
急に喋らなくなる私の気まぐれさ位。
だから近寄らないでよ
猫みたいな性格なんてどうせ面倒でしょ?
だからこないで、お願い。
もう傷つきたくない。
「日高さん、僕が今日この時間に誘ったのはね…」
しばらくの沈黙の後、須藤が突然喋りだした。
私はその声に集中したいから、
ゆっくりと目を閉じた。
―暗闇の中で須藤の声が響く。
…次の言葉を待っていたのに、
ピーッという音と同時に電車内に風が吹き込んできた。
そして、須藤の手が私の手首を掴んだ。
「ちょ…須藤!?」
焦る私を無視して、須藤はそのまま引っ張ってく。
びゅん、びゅん…
須藤は意外と足が速いのか、周りの景色が次々と変わる。
その風は、須藤と初めて出会ったあの日に吹いた風のように
私の長い髪を綺麗に散らばした。
段々、握られた手首が熱くなってきた。
ドクン...ドクン....。
鼓動がどんどん早くなっていく。
須藤は気にしないで真っ直ぐな目で走っている。
「…着いた!」
さっきよりも強い爽やかな風が吹く。
スカートの下から全身を通り抜けていく感じがした。
「う…海?」
あれ、何で私ここにいるんだろ?
電車から…何でここ?
「ふふっ!」
目をパチパチとしている私を見て、須藤は思わず吹き出していた。
「ちょっ何笑ってんの」
そんな子供っぽい須藤に腹が立って、真顔で須藤を見つめる。
「ごめんごめんっあはは」
やっぱり子供みたいな笑顔で笑う須藤。
「僕ね、この時間にここに来たら気持ちが透き通って、嫌なこととか全て忘れることができるんだ。だってほら、海はキラキラだし、砂浜も輝いてる。何だか気持ちいよね」
私の手首を握ったままだった須藤は、
今度はしっかりと私の手を握った。
私はその手を握り返して、
海と砂浜を見つめた。
今日はすごくいい天気だから、大量に反射してなのか
すごくキラキラ輝いて、私の心の中にあった暗闇が
ゆっくりだけど明るくなっていく気がした。
須藤は握った手をもっと強く握って
「だから1人だなんて思わないで」
私を見てまたニッコリと笑った。
「須藤…ありがと」
須藤のその言葉で少しだけ冷静になった。
そして同時に、須藤とがっちり手を繋いでたことに気づいて、あわてて手を離す。
「わああああああああああああああああああああ!語、ごごごおごげあごあxむああざxまおああああああ…ごめんなさい…日高さん…何かその、えああっえと…勢いで手握ってしまって、それに…なんかクサイ台詞…ああ恥ずかしいいいいいい」
大慌てな須藤。
そんな須藤を見て、思わずぷっと吹き出してしまった。
そして、砂浜に思い切り寝転んでみた。
青空、白い雲…
そして気持ちが落ち着く。
ああ、
私は今まで何でこんな人を信じなかったのかな
須藤みたいな、気持ちを落ち着かせてくれる人も
この世にはいるんだ。
―信じてみよう、須藤のこと。
「…あのね、私―」