アドレス1件目。
「はーっ終わったあ…」
ふぅ、とため息をつきながら、須藤は私を見た。
だいぶ疲れているのか、髪の毛が乱れて
眼鏡も少し傾いている。
「なによ」
寒いことで少し不機嫌な私は、須藤をじっと見た。
「あ、いや…掃除、最後までしてくれて…ありがとう」
須藤は何気ない顔で爽やかに笑った。
…笑顔ってどうつくってんだろうか?
「いいよ別に、暇だし。じゃ、さよなら」
私は冷たいロッカーに手を掛けた。
そのとき―
「待って!!」
…須藤が私を引きとめた。
―――――――――――
気づいたら、私と須藤は一緒にミスドへと来ていた。
何でミスドに来てるのか、自分でもよくわからない。
ただ、須藤に呼ばれて…そっからなんとなく…流れで?
まあ、暇だから別にいいんだけど…
「日高さん、僕おごるから。何食べたい?」
少しおどおどしながら喋る須藤がよく理解できない。
…何がしたいんだろう?
「じゃあ…なんでもいいや」
とりあえず私は2人席を探して、座った。
現在5:30…。
須藤って学校帰りに寄り道とかする人なの?
何の用あってミスド?
1人でぼーっとしてること10分弱。
須藤が息をきらしながら、大量にドーナツを買ってきた。
「はいっ日高さん!どれでも食べて!」
ニコッて笑う須藤が何か可愛い。
大量にえさをとってきて、「どうっ!?」って無邪気に
見せてきてるうさぎ…みたいな?
「ありがと。ねえ須藤…何でミスドに来てるの?」
話すことがなくなるのはちょっと困るから、
思っていることを聞いてみた。
「それは―日高さん、掃除手伝ってくれたし」
「掃除手伝っただけでこれ?」
「え、あ…う…うん…?」
「別にお礼とかいいのに…無理矢理やらされたわけではないし」
「でも日高さん、まさかやってくれるとは思わなかった」
…確かに
何で私やったの?
掃除なんて面倒なのに。
何で?
「まあ、お礼です!」
「ほんとに?後で返せとか言わない?」
すると、須藤は俯いて黙り込んだ。
え…まさか後でお返しもらうために…?
「そ、その、えっと…あの…」
何よ
何なんだよ
「ひ、ひ…日高さんと…」
「もっと仲良くなりたいです。」
…は?
え、え?
学年一怖いとか言われてる私と?
仲良く???
「私のこと怖いんじゃないの?」
沈黙。
変な空気嫌いなんだけど…
そう思ったとき。
再び須藤が口を開いた。
「確かに、少しは怖いです…けど…
僕は日高さんは悪い人だとは思わないです、友達になりたいんです」
真っ直ぐな目で須藤がこっちを見た。
いつもはどこか、ふにゃふにゃしてる目なのに。
今は…真っ直ぐだ。
正直だ。
「別に…いいけど…」
今思えば、何でこんなふうに答えたのかよく分かんない。
友達なんていらないのに、人なんて信じるのが馬鹿らしいのに。
須藤からのお誘いは何故か断れない。
なにこれ…。
「ほ、ほんとですか!?あ、あの…えっと…友達って…な、何を…するんですか?」
「はっ!?」
思わず飲んでいたジュースを吹いてしまった。
友達って何するって…
そんなこと言われても…。
「メ…メアド交換とかですかね?」
須藤は首をかしげながら聞いてきた。
「え、あ、そうなんじゃ…ない?」
メアド…か。
「じゃ、これ僕のメアドなんで!失礼します!!!」
急に白いメモを渡してきて、
須藤は勢いよく立ち上がってミスドを出て行った。
…なによ、いきなり。
メモをチラっと見る。
真っ白な無地のメモに、
小さく書かれた須藤のメアド。
syu.114@xxxxx
114…
11月4日?1月14日?
誕生日…なのかな。
私は何故か、迷いなくそのメアドを登録した。
カチカチカチチ....
【登録完了しました】
無愛想な文字が出てきて、これで初めて私の携帯にアドレスが登録された。
女子高生ならば、
女友達は何十件、男友達数件、親、家…
いろいろ入ってるのが普通。
だけど、こんな私だし、
アドレスは0件。メールの最終やり取りは2年前だ。
携帯なんて必要ないくらいなんだけどね…。
私は2年ぶりに「新規メール作成」というボタンを押した。
【須藤、日高です。よろしく】
…メールって本文打った後どうするんだっけ??
あ、これか、送信ボタン押すの?
【送信完了。】
なんとかできた…。
すると、いきなり返信が来た。
は…早!!
【日高さん!よろしくお願いします!!!!】
お、おう…。
なんか…変な感じ…。
そういえば
『日高さんと仲良くなりたい』って言われたけど…
仲良くなるってどうやるんだろう?
そもそも、須藤は何で私と仲良くなりたいわけ?
私なんて、
怖い怖いって言われるし
サボリ魔だし気分屋だし
友達なんて1人もいないし
仲良くなるメリットなんて無いよね?
何で…?