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散文集

歌う石

作者:

「私の腕は腐って落ちた。

 だからお前に言うのだよ。

 ここから逃げて忘れてしまえ。

 私の腕は腐って落ちた。

 私の脚はそれより前から、

 1歩も動きはしないのだ」


「私は歌う、歌う石。

 命があろうとなかろうと、

 私は歌う、歌う石」


「囁くことしかできないからな。

 囁くことしかできぬから、

 危険になるまで届かない。

 危険になれば時遅い。

 囁くことしかできぬ我が身を、

 その度私は呪うのさ。

 呪う声すら歌になる。

 そんな己が嫌になる」


「冷たい風が吹いてきて、

 そして冬が閉じ込める。

 緩んだ風が吹く日まで、

 冷たい風で押し込める。

 出ようとすれば牙を剥き

 閉じ籠っても凍み殺す。

 冷たい風が吹いてきて、

 死へと我らを閉じ込める。

 それでも私は歌う石、

 冷たい死でも黙らない。

 冷たく死んでも黙らない」


「もう何度となく死んできた。

 静かになったことなどなかった。

 けれど動くことはそれもなかった。

 多分うるさく死んでいる。

 そんな私は歌う石」


「遥かな昔に願ったのだと、

 やっと私は思い出したよ。

 いついつまでも いつまでも

 心動かず歌っていようと、

 遥かな昔に願ったのだと。

 心動かず体も動かず、

 ただに歌っていたのだと。

 私は願いを叶えたのだと、

 ようやく昨日、思い出したよ。

 心動かず体動かず、

 だから1つの喜びもなく。

 心動かず体動かず、

 故に苦しみもなかったと。

 遥かな昔の願いを叶え、

 今も私は歌う石」


「何故なのだと尋ねてくれたね。

 なぜ歌う石を願ったか。

 今だけ歌わず告げようか。


 辛かったからさ。

 心がなければ辛くなくてすむと思った。

 真っ先に倒れた私は、次々に倒れる者たちをどうにもできなかった。

 その上どうしてか、真っ先に倒れた私より、先に死んでいくのが辛かった。

 辛かったんだ。だから願った。きっと、命たちを贄にした。


 そして私は歌う石」


目覚めよ意思。

そして砕け散った。

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