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9話

「つ、疲れた……」


 俺はベッドにうつ伏せの状態で呟いた。


 あのあと、およそ4時間に渡って4人の姉妹からネチネチと口撃を受けた俺はこの上ないほど疲れていた。

 つーか、ルファがいらん情報をわざと間違った解釈で4人に伝えるから、本当に収拾がつかなかった。


 部屋の前にはフィレーネとアカとアオが俺を待っていたのか待機していたが、そんなことにかまう余裕は俺にはない。




「町を人間の手から開放しろ、か」


 俺は彼女達の要求を思い出していた。


 その町はボルボリの町という小さな港町で、この大陸の最西端に位置しているらしい。


 その小さな港町を、5年前突如として侵攻してきたのは人間の兵隊だった。


 50にも及ぶ白い旗の艦隊に、それまで争いとは無縁だった町はあっという間に占領され、略奪された。

 住民は死、若しくは隷属の選択を強いられたらしい。


「とりあえず、その町に行ってみるか」


 とりあえず、町の現状を確認しなければ話にならない。


 俺は町に溶け込む為の服と町の地図を用意してもらうと、フワリと空へと舞い上がり、西を目指すのだった。






「ひっどい状態だな」

「でしょう? 俺も融和の為に頑張ってはいるんすけどね。焼け石に水って感じですわ」


 俺がボルボリの港町に潜入して1週間が経った。

 町を取り戻せと言われて、俺はまず町の情報を集めることにした。


 俺の隣で相槌を打っているのはゴーガン。この町での協力者だ。

 彼は人間の軍隊に占領される前からこの町に住んでいた人間で、この町でのスパイ役を買って出ているらしい。

 ちなみに彼と初めて会ったときの第一声は「魔族の女の子って、かわいい子多いですよね」だった。


 俺はゴーガンのことを信用してはいない。……していないが、この町で情報を集めるのには、宿屋の倅である彼の立場が非常に有効だったのは確かだ。


 それにしても、この町を破壊しろ。とか、人間を殲滅しろ。とかなら割と簡単なことだったんだけどなあ。

 取り戻すってんだから、町の建物とか魔族の人達はできるだけ無傷で終わらせなきゃいけないし、その為の下準備もしなくちゃいけないし、結構大変だ。


 まあ、町の建物とかは人間を追い出せばいいとして、問題は人のほうだ。

 武力で追い払うのは簡単だが、どうせまた侵略してくるに違いない。

 強固な結界とかを築ければいいんだろうけど、俺は攻撃魔法とかで結界を壊すことは得意だが、築くのはそうではない。

 でも、町を取り戻せとしか言われてないしな。取り戻した後のことはあいつらがなんとかするだろ。きっと。


 魔族がこの町を取り戻すことができない理由のひとつが、人間の建てた教会の存在だ。

 教会はそれ自体が強力な魔力収集装置兼結界生成装置になっていて、そこに集まって祈りを捧げる人たちの魔力を吸収し、その魔力で強固な結界を発生させている。

 まったく、良く考えられた仕組みだと思う。ここは真っ先に壊さなきゃだめっぽいな。



 ゴーガンからもらった資料の中に見逃せない単語があった。


 奴隷市。



 俺は早速ゴーガンとともに奴隷の取引が行われている現場へと足を運んだ。


 檻の中には全裸で首輪をつけられた男。別の檻には女性。そしてまた別の檻には子供。見た目はそれぞれ角があったり、翼があったり、尻尾があったりとしたが、それは人だった。


 檻の前には商人のような身なりの男がこの場を仕切っている。


「……反吐が出るな」

「まあ、気持ちはわかるっすよ」

「あの商人、殺していいか?」

「旦那、今はまずいっすよ? わかってますよね?  ……いや、俺を睨めつけても駄目っすよ?」

「わかってる」

「今あいつ殺しちゃったら他の奴隷商人に警戒されちまうじゃないですか。そうしたら他の魔族は助けられないっすよ」

「わかってるって」

「……本当かなぁ?」


 いや、マジでわかってるよ。




 その日の晩、一人の奴隷商人と彼の商品は何処かへと消え去った。町の人間は誰もそれに気付くことはなかった。


 俺の目の前には解放された奴隷達が互いの無事を喜びあっている。


「やるなら、こんな感じでやらないとな」


 一人ニヤつく俺だった。

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