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5話

「フィレーネ」


「はい、なんですか? マコト」


「その、もう少し離れて歩いてくれないか?」


「はい、嫌です」


「……いや、その、胸があたってるんだが……」


「いやです」


 そう言うと更に体を密着させてくるフィレーネ。


 フィレーネと共に朝食をとった俺は城内を散歩しているのだが、フィレーネがどこにでもくっついてきて正直困っている。


 ちなみに「マコト様」という様付けの呼び方はやめてくれとフィレーネに頼んだところ、いきなり呼び捨てにされてしまった。


 なんでだ? なんでこうなった?


「マコトは私のことが嫌いなのですか?」


「いや、嫌いって事はないが、……ほら、人の目が」


「嫌いではないのなら、良いではありませんか」


 どうしたら諦めてくれるんだ……?


 そういえば俺、なにか目的があったような……。


 えーと……。


 ……あ。


「そうだ! 俺、フォルスナさんの所に行って、召喚魔法を習わないといけないんだった!」


 そうだよ! すっかり忘れてた! それに母親であり魔王であるフォルスナのところならフィレーネはついて来ないだろう。

 そう思ってフィレーネに声をかける俺だったが、フィレーネの口から出た言葉に俺は絶望することになる。


「お母様はしばらく用事があるようで、今朝早くに出掛けましたが?」


「……は?」


「お母様のことですから、恐らく最低でも一週間は戻らないかと思います」


「マジデ?」


「はい、マジです」


 それなら、魔力探知でフォルスナを探し出してやる……! とか思っていたら、「ああ、お母様は結界内に篭るとのことでしたので、探そうとしても無駄ですよ?」とのフィレーネの言葉。


 確かにフォルスナの魔力を全然感じることができない……。またも絶望する俺だった。


「マコト。召喚魔法なら私が教えて差し上げますから、安心してください」


「フィレーネも使えるのか?」


「お母様の娘の一人ですから、勿論私も使えます」


 そうか、フォルスナも娘達なら使えるって言ってたっけな。


「じゃあ、教えてもらおうかな」


「わかりました。では早速部屋に戻りましょうか」


 俺の手をとり、強引に歩を進めようとするフィレーネ。だが、俺は全力でそれを拒否する。

 フィレーネは恨めしそうな顔をしているが、ベッドのある密室で二人きりなんて、そんな見え透いた罠に引っかかるか!




 というわけで、色々な資料もあるということで、図書室のような場所でフィレーネから召喚魔法の講義を受けることになった。


 意外にもフィレーネの講義はかなりちゃんとしていて、すごく分かりやすかった。一応二人きりには違いないのに、あまり暴走せずにちゃんと教えてくれたってことから、根は真面目なんだろうと思う。


 フィレーネによればフォルスナの使う召喚魔法は2種類あり、一つは魂の繋がりを利用しての召喚。そしてもう一つは血の契約を利用しての召喚魔法があるそうだ。


 魂の繋がりというのはフォルスナが言っていたように血縁関係にある対象。ちなみに理論上は三親等まで大丈夫とのことだ。つまり叔父、叔母、曽祖父母、甥姪までは召喚できることになる。


 そして血の契約。これは使い魔召喚なんかに使われる契約方法で、主人の血を対象に飲ませたりして契約するというもの。

 しかしこの契約は完全な主従関係で、被召喚者は主人の召喚依頼を絶対に断れないというデメリットがもれなくついてくるらしい。


 フォルスナが行っていたのは勿論魂の繋がりを利用した召喚魔法。被召喚者は呼び出されるのを断ることができるらしいのだが、フォルスナはお母様であり魔王だし、それを断る娘はほぼいないとのことだ。




「なるほどなあ。……あれ? でも、俺がこの世界に召喚されたときの魔法はどうなってるんだ? 魂の繋がりも、血の契約なんてなかったんだが」


「マコトが人間に召喚されたときの魔法ですか……。推測でしかありませんが、対象者を無作為に選ぶ召喚魔法だったのでしょう。勇者を召喚したいという目的から、より強い力を持ったものをという条件もあったと思います」


「なるほど。それにしても迷惑な魔法だ」


「私としてはそのお陰でマコトに出会えたのですから、ほんの少しは人間に感謝していますよ」


 フィレーネはそう言って俺の隣に腰掛け、手を重ねてくる。雪のように白い肌はほんのりと赤みを帯びていて、艶かしい印象を俺に与える。

 吸い込まれるような美貌のフィレーネに正面から瞳を覗き込まれ、俺はその魅力的な瞳と唇から目を離せなくなった。


 ……ヤバイ。


「マコト……」


「フィ……レーネ」


 お互いの顔が吐息を感じることができる距離まで近づいた、その時――。




 ガチャッ


「――ッ!?」「……チッ」


「フィレーネ、いる?」


 突然の訪問者が現れ、ピンチを免れる俺だった。


 ……あ、あぶなかった。……というかフィレーネの舌打ちが聞こえた気がしたけど、気のせいか?




「ああ、フィレーネここにいたの。レイアお姉さまが呼んでいたわよ?」


 すぐにこちらを見つけた人物はフィレーネに声をかける。


「すぐ行ったほうがいいと思うわよ? お姉さま、結構イラついておられたみたいだから」


「レイアお姉さまが? ……わかりました。ありがとうございます、ルファお姉さま。……マコト、ごめんなさい、少し席を外します」


 フィレーネは足早に立ち去り、パタンッ とドアが閉まる音がして静まり返る室内。

 フィレーネを呼びにきたルファという女性は一言も言葉を発しないが、ジロジロと無遠慮な視線を俺に送っている。


「じゃ、じゃあ、俺は部屋に戻るかなー……」


 俺は嫌な予感がしたのでこの場を去ろうと腰を浮かすが、「まあ、待ちなさい」とルファに襟首を掴まれ、逃亡することはかなわい。


 ルファの顔には笑みが浮かんでいたが、それを見ても嫌な予感が増すだけの俺なのだった

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