4話
総勢200名の女の子に囲まれる俺。
少し遠くの壇上にはフォルスナが優雅に事の推移を見守っている。
「マコト様、よろしいですか?」
フィレーネが俺に声をかける。
「ああ、いつでもいいぞ。何をすればいいんだ?」
「はい。マコト様には魔王を継ぐ者として、その魔力を私達にお見せいただきたいと存じます」
「魔力ね……。で? 具体的な方法は? 魔法であの山でも砕けばいいか?」
「……は?」
フィレーネは『こいつは何を言ってるんだ』というような表情をする。
女の子達の中にもザワつきが波紋のように広がっていった。
「いや、魔法で山でも砕けば納得するのかなと」
「そんなことができるとは思えません」
「できるから言ってるんだが……。やって見せれば納得するか?」
ザワつきが一段と大きくなったところで、俺は魔力を集中させる。
目標の山は500メートル程遠くの小高い岩山だ。あれくらいなら全力の魔力を出さなくても破壊できる。
俺は集中させた魔力を対象に向け、一気に爆発させる。
すさまじい轟音とともに岩山は木っ端微塵に、そしてその光景とは裏腹にその光景を目撃したフィレーネをはじめとするフォルスナの娘達は完全に沈黙していた。
「マコトよ、流石だな」
フォルスナだけは俺の実力がはじめからわかっていたのか、上機嫌で声をかけてくる。
「とりあえず、こんなもんでいいか?」
「…………」
「おーい?」
俺の問いにフィレーネは何も答えない。……口を半開きにして呆けているような感じだから、答えられないというのが正しいのか、いずれにせよ折角の美人が台無しだ。
「……すごい」
「お?」
「マコト様、すごいです! これほどの魔法、私初めて見ました!」
堰を切ったようにフィレーネはすごい勢いで俺にまくしたてる。
「え、いや……、ありがとう? でいいのか?」
「マコト様になら私、忠誠を誓います! いえ、誓わせてください! お願いします!」
フォルスナがすぐそこにいるのに、その発言は如何なものか。
フォルスナを見ると、彼女は俺に向かって握り拳の親指だけを上にあげる。所謂サムズアップというやつだ。
その表情を見るに、……どうやら何も問題はないようだ。
「マコト様」
気がつけばフィレーネは俺の目の前、お互いの吐息を感じることができる距離まで接近していた。
「っ!? フィレーネさん? 近い、近すぎるよ?」
「……フィレーネとお呼びください。マコト様……」
フィレーネはその豊満な胸を押し付けながら、なお俺に密着してくる。
「……フィレーネ、近いから離れようか?」
「……嫌です」
「……ッ!?」
フィレーネはそう言うと、そのまま俺に唇を寄せ、自らの唇と俺の唇を重ねた。
周りからは「キャー!」と黄色い悲鳴があがっていた。
「おはようございます。マコト様」
「ああ、おはよう。フィレーネさん」
翌朝、俺がベッドで寝ていると部屋の中に入ってくるフィレーネ。
昨日はあの後もフィレーネにくっつかれて大変だった。夜寝るときも俺のベッドの中に入ってこようとするし……。フィレーネの誘惑に勝った俺を誰か褒めてくれてもいいと思う。
というか、そんなことになったらフォルスナの思惑通りになってしまうじゃないか。
「マコト様!」
「え……、何?」
「私のことはフィレーネとお呼びくださいと、昨日も申し上げたはずですが!?」
「ああ、ゴメン、フィレーネ」
それでいいのです! と言わんばかりにフィレーネは満足そうな表情を浮かべる。
「それで? なんで朝からフィレーネが俺の部屋に?」
「なんでと言われましても……。マコト様と婚約を交わしたのですから、婚約者同士が一緒にいるのは当然のことです」
「ああ、婚約ね。……こんやく? えっと……どういう……? えっ?」
は??? 婚約??? 俺が??? 誰と??? いつ??? え???
寝起きの頭で思考回路が正常でもないのに混乱しまくる俺だが、フィレーネは容赦なく続ける。
「昨日、お母様や皆の前で接吻を交わしたではありませんか」
「あのキスのことかっ!? いや、あれはフィレーネが無理やり……」
「マコト様なら、振りほどくこともできたはずですが?」
「…………」
「さあ、朝食の用意ができておりますので、着替えて向かいましょう」
……ヤラレタ。流石魔王の娘だよ。
~side フィレーネ
マコト様のあの魔力……。
昨夜は失敗してしまいましたが、マコト様とならば次期魔王として魔力の素質に恵まれた子供ができるはず……!
姉達を見返すためにも、絶対にマコト様を逃がすものですか。
それにマコト様は良く見れば可愛い容姿をしています。
……今夜こそは、絶対に成功させます!
フフフフフ……。