3話
「なるほどな。帰る方法か。確かに我の召喚魔法を体得すれば可能性はあるな」
「やっぱりそうか!? いやあ、良かった。んじゃ早速教えてくれないか?」
「いいだろう。しかし可能性は確かにあるが、マコトが我の召喚魔法を覚えても帰れるかどうかはわからぬぞ?」
「何故だ?」
「我の召喚魔法は自分自身を召喚対象にすることはできぬのだ」
「ということは、俺が召喚魔法を覚えたとしても俺は帰れないのか?」
「うむ」
「じゃあ、フォルスナさんが俺を送ってくれるというのは?」
「それも適わぬ」
「何故だ?」
「我がマコトの世界の場所を知らぬからだ。我も知らぬ場所に送ることはできぬ」
「なるほどな……」
「だが、ひとつだけ可能性がある方法がある」
「ほんとか!?」
「うむ、それはだな――」
フォルスナが言った案は、まず俺が召喚魔法を体得する。
そして俺自身がまず召喚魔法で俺の世界に人を送り、送り込んだ人にあらためて俺自身を向こうに召喚してもらう。というもの。
うん、確かに可能性がありそうだ。
それに過去2回の帰還方法に比べてだいぶ楽そうだしな。
ん? 過去2回の帰還方法? そりゃ大変だったよ……。
一回目は5年1月22日の周期で魔力が蓄積される世界樹と1週間に及ぶ魔術儀式を駆使して、それこそ奇跡的に帰還。
二回目の帰還方法自体は簡単で、魔王の持っていた杖の力を解放して魔方陣に流すだけだったんだが、その杖をめぐって王様を敵に回してしまい、随分と苦労した。
「ただ、その方法には制約があるのだ」
「制約?」
「うむ。一つはこの世界でこの召喚魔法を使えるのは我とその娘達だけということ」
「ふむ」
ということは俺の世界に送るのはフォルスナの娘しかダメってことか。
「そして2つ目。召喚魔法は魂の繋がりがあるものしか対象にできん」
「魂のつながり?」
「うむ。要するにマコトと血縁関係、婚姻関係にあるものしか召喚魔法の対象にはならぬということだ」
「まじかよ!?」
「ということはマコトよ、我の娘と結ばれるしかお主は帰れないということになるのう」
フォルスナはニヤッと、魔王という名に相応しい笑みを浮かべた。
う~ん……。本当にそれしか方法がないものか……ってところだよなあ。
「……フォルスナさん、俺がフォルスナさんの娘さんと結ばれることによって、フォルスナさんが俺に求めることはなんだ?」
「うむ……、我がマコトに求めるのは人間に対する抑止力と我らの安全の保障だ。できればそのまま我の後を継いでもらえると嬉しいのだがな」
「なるほど、納得だ。魔王を継ぐってのは勘弁だけどな」
「そうか。しかしその顔から察するに、我の娘を娶るという我の提案も前向きに検討してもらえそうで安心したぞ」
「……まだ回答は控えさせていただくよ」
「どうしたもんかな」
といっても、帰るには今のところその方法しかなさそうだし、そろそろ嫁さんをもらうのもいいかと考えていたから、フォルスナの案に乗るのもやぶさかではないんだが。
それにしても、200人以上の娘がいるって、一体フォルスナは何歳なんだよ……?
今、俺はフォルスナの用意してくれた一室でくつろいでいる。
食事もいただいちゃったんだけど、200人の女の子が見ている中での食事なんて食べた気がしなかった。
コンコン
ベッドで横になっていると、不意にノックの音が部屋に響いた。
誰だ?
「はーい! 開いてるからどうぞー?」
俺が返事をドアの向こうの人物に返すと、ドアを開けて一人の女性が部屋に入ってきた。
「お休み中失礼いたします」
優雅な所作で俺に挨拶をする女性。
女性の見た目は一言で言って完璧。
輝くような美しい金の髪は真っ直ぐで長さは腰の高さまであり、切れ長の透明な瞳は青く、その肌は白く、雪を思わせる。
フォルスナと同じような魔力の波長からして、彼女はフォルスナの娘の一人ということで間違いないだろう。
「えっと、君は?」
「私の名はフィレーネ。娘達の代表として伺いました」
「そっか。……んで、用件は?」
「ハイ。マトコ様の実力が知りたく存じます」
「ほほう」
「お母様はマコト様を認めたようですが、私達はマコト様が本当に魔王を継ぐに足る実力を有しているのか。そして私達を娶る資格があるのかどうかをこの目で確かめさせていただきたいのです」
「ふむ、わかった」
「……いいのですか? その実力を証明する方法すら私はご説明していないのですが?」
「俺の実力が知りたいんだろ? ま、適当に魔法とか見せればいいか?」
「……そうですね。では明日までに準備をしておきますのでよろしくお願いいたします」
「あいよ」
「それではまた明日。お休みのところを失礼いたしました」
そう言い残し、フィレーネは俺の部屋を後にした。
あんな女性と結婚できるかも知れないのか……。
「よし! 頑張ろう!」
俄然やる気が漲ってきた!