2話
「あんたが魔王か?」
俺は玉座に腰かけているばかでかい影に話しかけた。
やたら暗い室内のせいで姿が全然見えないけど、感じる魔力は間違いなくこいつが一番だ。
「……お前は何者だ? 我の感知魔法にも引っ掛からず、堂々と玉座に入ってくるとは……」
「そうだな、俺は勇者候補ってとこだ」
「……なんだと!?」
「あ~、まあ、あんたを今すぐ殺すとか、そういうことはしないから安心してくれ」
「ほう? 我を殺すとな? 大した自身だが、試してみるか?」
「いや、そういうことはやめとく。俺はあんたに話を聞きに来ただけだしな」
「話だと? 貴様のような人間に話すことなど何もないと思うがな」
「そう言うなよ。戦争相手だからって、話もしちゃいけないってことはないだろ? それにそもそも、俺はこの世界の人間じゃないしな」
「……なるほど、異世界人か?」
「うん。こっちの人間に強制的に呼び出されちまった。そんでもって、あんたを倒してくれって頼まれた」
「脆弱な人間共が考えそうなことだ。自分達では何もできないから他人を、しかも異世界人を頼ろうなど」
「全くだ。意見が合うな」
「それで? 話とはなんだ?」
「魔族と人間って、なんで戦争してるんだ?」
「知れたこと。……人間共が我々の仲間を殺したからだ。その上、魔族などという名前で我々を差別し、一方的に悪とした。我らはやられたことをやり返したに過ぎん」
「なるほどな。どっちもどっちってことか。……発端は人間側にありそうな感じだけどな」
「勇者候補よ、お前の名は?」
「俺の名前はマコトだ。魔王、あんたの名は?」
「我の名はフォルスナだ。……マコトよ、お前は話のわかる人間のようだ。……我のものにならぬか?」
「悪いが、まだどちらにつくかは判断できかねる。……魔族側に傾いてはいるがな」
「……そうか」
「それに、俺は男のものになんてならん!」
「ならば、我のものになれ」
「……フォルスナさん? 話聞いてた? 男のものにはならんて……」
「我は女だ」
「……へ?」
こんな大柄な女の人は嫌だなぁ……。とか思っていたら、フォルスナの影が一気に縮み、そこには小柄なおばさんが佇んでいた。
「見よ。我は女だ。これでマコトの条件はクリアされたな?」
「フォルスナさん。申し訳ないが俺は若い女が好みなんだ……」
これだけは譲れない! いや、フォルスナもおばさんにしては綺麗な部類だろうけど、……ねぇ?
「なんだ、そうだったのか? 仕方がない、それならば我の娘達から気に入った者のものにならぬか?」
「娘?」
「うむ。今すぐこの場に呼ぶから、一目見て見ぬか?」
「ああ、とりあえず見るだけなら」
「それでは呼ぶぞ」
フォルスナはそう言うと意識を集中して、何もない広間の空間に向けて手のひらをかざす。
娘達ってことは、何人かいるのか……?
今までの異世界でも関係を持った女性はいたが、結局俺は地球に帰りたいってこともあって、あまり深い関係にはならなかった。
自由に異世界を行き来できれば、もっと踏み込んだのかもしれないけどなあ。
気がつくと広間は青白い光に包まれていた。
そして一瞬、目が眩むほどの光に俺は思わず目を手で覆う。
光が収まった広間を見渡した俺は思わず呟く。
「……多すぎだろ」
まるでこの世界に来たときの状況のようだった。
俺の目の前には人、人、人。違うところと言えば、その人達が全て女性だったことだ。
普通の人間のような外見の子。青い肌、赤い肌、黒い肌、耳が尖っているもの。獣の耳を持ったもの。角の生えたもの。尻尾の生えたもの。
ありとあらゆる種族の娘がその場に存在していた。
「どうじゃ? 気に入った娘はおるか?」
「……これ、全部フォルスナさんの娘なのか?」
「うむ。まだいるが、全員をこの場に呼ぶことは適わなくてな。とりあえず若い娘を中心に200人程召喚しておいた。気に入った娘がいれば声を掛けてみるがよい」
「う~ん……」
俺はせいぜい多くても10人前後かと思っていたから、正直なところ途方に暮れていた。
「気に入るものはおらぬか? それとも人数が多いか? 多いのなら少し送り返して少なくするぞ?」
「確かに多いが、送り返すことができるのか?」
「うむ。呼んだのだから、送り返すことなど造作もないことじゃ」
うん? これはひょっとして、ひょっとするかも?
「フォルスナさん。ひとつ頼みがあるんだが……」
今回の帰る方法は、どうやら魔王から学ぶことになりそうだ。