17話
ひたすらに快楽を貪り、夢うつつのような感覚の中で聞こえてきたのは、ここ最近良く聞いていた声だった。
「ちょっと、何ですか、貴方たち。そこを通しなさい」
「いえ、我々はカーティス様の命で、パドル様を警護しているのです」
「そこにマコトがいるはずだ、通せ!」「……とおせ!」
「こちらにマコト様がいるのかは私たちにはわかりません。しかしパドル様の警護を仰せつかっている身としては、お通しするわけには……」
どうやら、扉の外で言い合いが始まっているようだった。
体を起こして、その言い争いに耳を傾けようとするが……。
「マコト様……もっとぉ……」
しなやかな肢体に絡めとられ、俺は肉の海に沈む。
快楽が俺を捕らえて離さない。
意識がそれに囚われ、そのまま、また貪ろうとしたそのときだった。
衝撃が響いた。
「ぬわーーー!!」
悲鳴。大きな衝撃音。飛び散る破片。そして振動。
驚いて見れば、扉を突き破って部屋に飛び込んできたのは、鎧を着込んだ兵士だった。
鎧は胸のあたりが凹んでいる。結構分厚そうな鎧だ。それが凹んでいる。
肝心の兵士はというと、白目をむいて気絶してしまっているようだ。
「大人しく通さないから、そんな目にあうのですよ」
「やったのは、私じゃん」「……じゃん」
「お姉さまがやらなかったら、私がやっていましたよ」
「まあ、いいけど。それよりも、マコトだよ!」「……だよ!」
「彼の魔力はこの部屋から感じられるわね。部屋に細工がしてあって、魔力が感じられにくくしてあるけど、私の目は誤魔化せないわよ」
「流石です。ルファ姉さま」
「流石、ルファ姉」「……流石」
人の気配が近づいてくる。……女の声だ。
「でも、なんかこの部屋、生臭い」「……臭い」
「……この臭いは……!」
「あらあら」
部屋に立ち入ってくる、複数の気配。
今の俺は、真っ裸。俺の下には真っ裸の女。
やばい事態のはずだ。だが、不思議と焦りは感じなかった。
「マ、マコト!? 何をしているのですか!?」
「裸だー!?」「……だー!?」
「お盛んねえ」
こちらを見て驚く女達。
フィレーネ。アカ。アオ。そして何故かルファ。
俺の感情はひとつだけだった。
「……女」
ゆらりと立ち上がり、歩を進める。
あれだけパドルの体を貪ったというのに、それだけしか頭に浮かばなかった。
「……ま、マコト?」
「……様子が、変だ」「……変」
「あらら」
怯えるような表情の女達を見て、更に興奮が高まる。
「女! もっと、女を!」
「ま、マコト、落ちついて……きゃあっ!?」
俺は手始めにと、まずは金髪の美女に襲い掛かるのだった。
「……ごめんなさい」
正気に戻ったのは、夜が明けてからのことだった。
俺は顔を赤くして睨む女達に向かって誠心誠意、頭を下げていた。
脚を折り、脛と手と額を地面につけ、脳天を彼女達に向けている。
そう、土下座である。
昨夜のことは大体覚えている。
特に皆の浮かべた表情、声、そして感触。
俺は肉欲に支配されていた。
支配される原因があっただろうことは推察できる。
だが、してしまったことはしてしまったのだ。
一線どころか、一戦どころか、何戦もしてしまった。
「マコト」
声がかけられる。この声は、フィレーネの声だ。
俺は土下座を維持したまま、声を聞く。
「……結婚式は、明日でいいですか?」
……既に決定事項のようだった。