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15話

「マコト、これもどうですか? ボルボリの町特産品、ズーロールフィッシュの岩塩包みです」

「へええ。なんかうまそうだな」

「マコト、それよりもこっちがいい! 鯨の腹肉だ。うまいぞ!」「……ぞ!」

「あらあら。もてもてね、マコト」


 フィレーネとアカとアオに囲まれ、それをすぐ近くで微笑ましそうな顔で見ているルファ。

 料理はどれもうまい。

 飲み物も、果実のジュース、酒。どれもなかなかのものだった。

 特にビールは魔術でキンキンに冷やされており、熱気に汗ばむ体にしみこむようにうまかった。


「マコトは、冷えた麦酒が好きなのですね」

「おう。やっぱこの冷えたビールがたまらないな!」

「ふふふ。いくらでもありますから、そんなに急いで飲まなくても、大丈夫ですよ」


 空になったグラスにフィレーネが酒を注ぐ。

 ついでに魔術で冷やしてくれて、口の周りに何か付いていれば湿った手ぬぐいで優しく拭ってくれる。

 アカとアオは自分の好みのものをどんどんと平らげていくが、彼女だけは俺の横について、甲斐甲斐しく世話を焼こうとする。

 大勢が俺に注目しているのがわかるので、少し気恥ずかしかったが、酒に酔っていたせいもあり、あまり気にならなかった。

 まあそもそもあまり皆、俺には近づいてこない。

 あの四姉妹の言葉が効いているのか、はたまたフィレーネたちのお陰かはわからないが……。


「失礼。少しよろしいか?」


 と、そんなことを思っていたら、俺達に近づく影があった。

 かけられた声は低く、男のものだ。

 ちなみにこのパーティー。男の魔族の姿も多く見受けられた。

 以前フォルスナが自身の娘を集めたときと同じように、いや、それ以上に姿かたちが独特な種族が多かった。

 あのときはフォルスナも人間に近い種族の娘を呼んだって、そう言ってたし、あまり驚きはしないけども。


「えーと、あんたは」

「私はカーディスと申すもの。ボルボリの町を含む、南西の地区を任されているものだ」


 カーティスと名乗った男は、赤く燃えるような瞳を俺に向けていた。

 黒い肌に赤い目、赤茶色の頭髪は長く、腰の辺りまで伸びている。

 ここまでなら普通の人間にもいそうな外見だったが、彼の魔族らしい特徴は肩にあった。

 正確に言えば、肩から生える腕。彼の腕は、二本ではなく、四本もあったのだ。

 ただでさえ屈強な肉体。身長も俺より頭二つ分くらいは大きい。なかなかの威圧感だ。

 だが敵意は感じられない。むしろどこか尊敬のまなざしを向けられている。


「ということは、ボルボリの町はアンタの……。俺はマコトだ。知っているとは思うけど」

「勿論、君のことはよく存じ上げているとも」


 カーティスはその巨体を屈め、まるで臣下のように頭を下げた。


「此度の件、本当に感謝している」


 その言葉に嘘は感じられない。

 周りからは、どよめきさえ聞こえてくる。


「だけど、何で自分で取り戻さなかったんだ? あんたほど強ければ、簡単に町は取り返せそうなもんだが」

「……私では駄目なのだ。なにせこの体だ。目立って仕方ない。部下も同じ上に、魔法は得意ではない。確かに力ずくで取り戻すことは出来たかもしれない。しかし我々では町は破壊され尽くし、人間に奴隷にされた者達も、君のやり方でないと取り戻せなかったろう」

「俺も、さすがに海外に連れ去られたやつらは、どうしようもなかったけどな……」

「それは仕方が無い。わかっているつもりだ。自分達ではどうしようもなかったから、ロワール様に泣きついた。そして、お前がやってくれたのだ」

「いや、俺は、ただ」

「わかっている。君にはその意識はなかったかもしれない。だが、結果、君は私の願いを叶えてくれたのだ。ありがとう」

「どう、いたしまして……でいいのか?」

「勿論だとも。ついては、感謝の印として、君に贈り物がある。後ほど届けさせるから、是非受け取ってもらいたい」

「え、ああ」

「では、私はこれで。どうやら、他にも君と話したいものが、大勢いるようだからな」


 その言葉の通り、カーティスが去った後、俺はほぼ会場にいる全ての人と挨拶を交すハメになった。

 カーティスとの会話がきっかけとなったのか、それはよくわからなかったが、とにかくパーティーの前半で、色々と食べ物を堪能しておけて、よかったと思う。

 何より、その一人一人がしきりに酒を勧めてくるんだ。俺はもともと酒には強いほうだったが、さすがにこの人数はきつかった。断るのは礼儀知らずとなるってフィレーネに言われていたから頑張ったが、もう頭がふらふらである。


「お疲れ様でした。マコト」


 フィレーネがそう言って冷えた飲み物を差し出してくる。

 僅かな酒精を感じたが、果実の香りが強い、すっきりしたとても甘い酒だった。

 咽が渇いていた俺は、疑うことなくそれを飲み干す。


「良かった。ちゃんと、飲んでくれました……」

「よくやった! フィレーネ!」「……やった!」


 それを見て何故か喜びだす、俺の側からずっと離れなかった彼女達。

 フィレーネはここぞとばかりにしなだれかかってくる。アカとアオも俺の腕をとり、その平たい胸を押し付けてくる。


「……ん? どうかしたのか?」

「……あれ? マコト、なんともないですか?」

「あれ?」「……れ?」

「……特に、なんともないけど」


 頭がぽわぽわしているが、これは疲れと酒のせいだろう。

 フィレーネ達の女性独特の甘い匂いにクラクラするが、これは彼女達が魅力的なのがいけないのだ。


「でも、マコト、ちょっと眠たいんじゃないですか? 目がボーっとしてますよ」

「……いや、そういうことは特に無い。少し疲れただけだ。大丈夫」

「部屋に戻るか? 私たちが支えるぞ」「……支える」

「……いや、大丈夫だ」


 心配そうに俺の顔を覗き込んでくるが、やっぱりみんな美形だな……。それに優しい。


「……ちょっと、フィレーネ。どうなってるのさ!?」「……さ!?」

「……いえ。確かに即効性の魔法薬を飲ませました。一時的に本能むき出しで、我慢できなくなる薬のはずなんですが……」


 アカとアオに連れられて、俺から離れる女達。何かを話し合っているみたいだけど、俺にはそれを気にかける余裕はなかった。

 なんだか言い合いを続けている彼女達を尻目に、俺は席を立って歩き出す。


「……トイレ」


 背後からついてくる、何人かの人影にも気付かぬまま……。


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