14話
パーティ当日。
城の大広間には会場が用意され、そこには数々の料理が並んでいた。
会場には舞台が用意され、そこでは楽団が演奏を披露している。
「はー。こりゃなかなかだな」
「そうでしょう? みんな、今回の勝利を喜んでいるのよ」
「俺も頑張った甲斐があったってもんだな」
「ええ」
パーティに参加しているのは、あの四姉妹を含む魔王の娘たちと、各地を治める種族の長などだ。
人数は全部で二百ほど。
「さあ、まずはマコトの挨拶がなければ、宴は始まらないわ」
「お、おう!」
フィレーネに促され、俺が舞台に上がると同時に演奏も止まる。これは事前に打ち合わせしたとおりのことだ。
その変化に会場中の視線が俺に向いた。
なかなかの圧力だ。俺が会社でプレゼンの研修を受けていなければ、多分この場で何も喋ることは出来なかったろう。
俺は息を深く吸い、魔力とともに、言葉を紡ぐ。
「あー……、今日はボルボリの戦勝記念パーティということで、遠路はるばるよく集ってくれた。聞いているとは思うが、俺がマコト、見ての通り人間だ」
会場いたるところで小さなどよめきが生まれている。
話には聞いていたが、本当に人間だとは思ってもみなかったというやつか?
近くで話している声を拾えば、「人間などに、何故魔王様は……」とか、「一体魔王様は何をお考えなのだ」とか、そんなことを話しているのが聞き取れる。
そもそも魔王の城のパーティで、壇上で人間が挨拶を述べることがおかしいらしい。
「ともかく、俺は人間だが、フォルスナの敵ではない。これから肩を並べることもあるかもしれないが、そのときはよろしく頼む」
まあでもしょうがないだろう。俺はそのどよめきをものともせず、喋り続けた。
我ながら無難な挨拶を終え、壇上から去り、俺に代わって姿を現したのは、あの四姉妹。
まばゆいばかり美貌と、その圧倒的な存在感に、会場の空気は一気に変わる。
「マコトは私たちからの課題を見事やり遂げた」
「そう。ボルボリの町のことは、皆も知っているはずですね」
「彼の功績もそうだが、彼は強い。強者には礼儀を。それが我々の流儀である」
「彼のことは私たちが認めました。もし、それに異議のあるものは名乗り出なさい」
主に凍りついたように、だ。
目に見えるほどの魔力を放って、会場中の人たちを威圧する四姉妹に、冷や汗が流れる。
一人一人ならまだしも、あれ全員相手にしたら、さすがに俺でも苦戦するかもしれないな……。
時間にすれば、それは十数秒のことだったろう。だが、それで十分すぎた。
膝をつくものがちらほらと見え始めて、ようやくその魔力を収めた四姉妹は、にこやかに語りかける。
「そのような者はいないようね」
「良かったです」
「お前たちを信じていたぞ」
「では、堅苦しい挨拶は抜きにして乾杯としましょう。皆、杯を」
いまだダメージが抜けていないものも必死で立ち上がり、よろめきながらも杯をあげる。
「乾杯」
四姉妹の中央に立つ黒い美女、ロワールが乾杯の音頭をとり、パーティは始まるのだった。