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12話

「おまえ、何言ってるんだよ?」

「シー……面白そうでしたから、少し遊んであげようと思いまして……話を合わせてください。マコト」

「……わかったよ」


 後ろから抱きしめるフィレーネの右手は俺の顎に。そして左手は艶めかしく下半身をさすっている。


「マコト様! 目を覚まして! マコト様っ!!」


 虚ろな表情をした俺を、悲痛な声で呼ぶマリー。

 ……いや、操られたりしてないんだけどな。

 それっぽく表情を作ってみてるんだが、なかなか効果があるらしい。

 というか、フィレーネ、股間をさするのはやめろ……! 大きくなってしまうじゃないか!?


「ふふふ……。私の名は淫夢のフィレーネ。この男にはもう、あなたの声など届きはしません」

 フィレーネに二つ名があるとは知らなかった。

 ……つか淫夢って、エロい想像しかできないんですが?


「……淫夢のフィレーネ、ですって? ……まさか、あの!?」

「あの、かどうかはわかりませんが、この名を名乗っているのは私だけのはずですね」

「……魔王の側近と呼ばれているほどの魔族が、何故こんなところにいるんですか!?」


 んで、フィレーネが魔王の側近? だとしたら、あの四姉妹の立ち位置はどこなんだ?

 人間サイドでは、やけにフィレーネって恐れられてるっぽいな。


「不思議なことを言う聖女様ですね。この町を奪い返そうとしているだけではないですか。私たちはやられたことをやり返しているだけ……いいえ、同胞を奴隷とされた此方側からすれば、一般人は見逃してあげているのです。かなり寛大な処置だとは思いますが?」

「な! もともとは魔族がこの地に住んでいた人間を皆殺しにして、町を奪ったのではないですか! なんという詭弁を!」

「あら。あなた方はそんなふうに聞いているのね」


 俺は小声でフィレーネに話しかける。


「……おい、あれは本当のことか?」

「……いいえ、どちらを信じるかはマコトの自由ですが、かつてこの地に人間が住んでいたことはありません。人間達は自分たちに正当性があるように、民衆に伝えているのかもしれませんね。お疑いでしたら、城にある記録を見て見ますか? 私たちにやましいところはありませんから」

「……わかった。とりあえず、お前達を信じることにするよ」

「……ありがとうございます」


 マリーの力は増すばかりだ。魔族が近づこうとしても、すぐに強力な力で吹き飛ばされてしまっている。


「……で? これ、どう収拾つけるんだ?」

「あとは、操られたマコトが、一瞬だけ理性を取り戻して彼女を拘束するというのはどうでしょう?」

「捕えるのか?」

「はい。捕虜として扱います」

「捕虜となった彼女はどうなる?」

「通常の捕虜の扱いと同じですね。捕虜は強制労働です。しかし彼女は女性ですので、一般兵の慰み者となるでしょうが」


 うーん。流石になあ……。この町で人間が魔族にしてきたことだから、強くは言えないが、少し可哀そうだ。


「俺にあの子を預けてもらえないか?」

「マコトにですか? 残念ながらそれは却下です。マコトには私やお姉さまたちがいます。人間の女になんか、構っている暇はありませんよ?」

「そこをなんとか」

「だめです」

「どうしてもか?」

「だめですよ、マコト」

「じゃあ、せめてこの場所から逃がしてやれないか?」

「うーん。ちなみにどうやって、ですか?」

「船はもう出ているよな?」

「みたいですね」

「俺が正気に戻ったふりをして、船に運ぶ」

「……わかりました。でも、あとで私の頼みごとも、聞いてくださいね?」

「わかったよ。俺にできる範囲でな」

「約束ですよ?」

「わかったって」

「では、あとはお任せしますね」

「ああ」


 そう言って、俺はマリーの目にしっかりとわかるよう、呻き声をあげて苦しむふりをしはじめた。


「……ぐ、ぐああああ!!」

「な!? この男、私の呪縛を……きゃああ!」


 弾けた光と共に、吹っ飛ぶフィレーネ。

 フィレーネも、随分と乗ってくれているようでなによりだ。


「マコト様!?」


 派手に吹っ飛んだフィレーネは起き上がらない。

 それを確認してから、マリーは俺に駆け寄ってくる。


「マコト様! 正気を取り戻したのですね!」

「……あんた、は、シスターマリー……か」

「はい! 私はマリーです、マコト様!」

「ぐっ……!」


 頭を手で押さえて、呻く。


「マコト様!?」

「……あの魔族の魔法は、解けていない。……俺が正気なうちに、早く逃げるんだ」

「いやです! 逃げるなら、マコト様も一緒に!」

「そこまでです」


 見れば、フィレーネが立ち上がってこちらに手をかざしている。

 怪しい光が手から発せられているが、これも演出だろう。その光からは何の力も感じられないのだから。


「が……があああ!!」

「マコト様!」

「……く、そ」


 俺は苦しみながらもマリーの体を抱いた。

 そして飛翔する。

 そのとき、彼女胸を揉んでしまったのは不可抗力だ。


「マ、マコト様!? と、飛んでますよ!?」


 マリーが驚いているみたいだが、俺は苦しむふりをするのに忙しい。

 というか、この世界では、飛翔魔法は珍しいのだろうか?

 建物を越えて、港から遠ざかる船を目指す。

 途中で放り投げても良かったんだが、まあここまできたら船まで運んでやろう。


「マコト様、船です! もうすぐ船につきます!」

「……ああ」


 俺はふらつきながら、船尾部分にマリーと共に降り立つ。

 膝をついた俺をマリーが支えた。


「あ、あんたらは一体!?」

「そ、空を飛んできおった!?」


 やっぱり、空を飛んだことにやけに食いつきがいいな。……なんでだ?

 まあ、今はそれよりも仕上げか。


「が、があああああああああ!!」


 一際大きな呻き声をあげて、俺は黒い光を体から発しながら、ふわりと宙に浮く。

 もちろん、この光は単なるエフェクトでなんの効果もないが、見ている奴らには効果覿面。皆一様に恐れおののいている。

 マリー以外は。


「ダメ! マコト様、負けないで! あの魔族になんか、負けないでください!」


 俺に向かって手を伸ばすマリーの目からは涙が溢れている。

 その悲痛な表情も、正直そそる。

 だが、俺の黒い光は強まるばかり。

 その中で、俺は彼女に別れを告げた。


「マ、リー……。さよ……なら」

「イヤ! 私イヤですっ! さよならなんて、イヤあ!!」


 マリーが聖女としての力を使っているのがわかる。

 だが、光り輝く彼女の力も、俺には届かない。

 普通だったらここで魔族の洗脳が解けてハッピーエンドなんだろうけど、そうはいかんよ。


 黒に包まれた俺はある程度船から離れたあと、飛翔魔法で一気にフィレーネのもとへと飛んだ。


 マリーの泣き声が、大海原に消えて行った。


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