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11話

 ボルボリに町の人々は、先日から何故か気だるげな感覚がずっと続いていることに首を傾げていた。しかしそれは疲れているだとか、飲みすぎ、食べ過ぎだろうということで話は終わっていた。

 まさか、自分たちが頼りにしている結界が、自分たちの力を弱めているなんて、想像もできなかったみたいだ。


 そんなところへ、魔族の軍勢が攻め入った。

 はじめ、その情報が伝えられても、人間は楽観視していた。

 いつものことだ。どうせこの町の結界を突破できるはずがない。

 気だるげな体をわざわざ動かして働く必要もない、と。


 普段ならば魔族の奴隷を獲得する為に、積極的に迎撃に出る彼らも、体の不調には勝てなかったようだ。


 戦闘は、あっという間に終わった。

 もとより結界頼みで、危機感が薄かった兵士達に勝ち目はなかった。


 結界に阻まれるかと思っていたら素通りされ、油断したところを一気に攻めこまれたのだ。

 伝令をあげる間もないほどに。


 勝鬨をあげて、勝利をアピールする魔族たち。


 俺はそれを尻目に、町の住民の避難を急がせていた。


「早く船に乗れ! 魔族が攻め入ってくるぞ!」


 丁度町に来ていた大きな商船に、住民たちが我先にと乗り込んでいく。

 一応、町の住民がみんな乗り切れるくらいの船来ることは、ゴーガンから情報を得ていた。

 このタイミングに合わせて、魔族を攻め入らせたのだ。

 さすがに兵士はともかく、一般人を死なすのは後味が悪いからな……。


 人間の軍の戦艦は魔族の魔法で既に沈められている。


 そんな混乱の中、俺はあのシスターに出会った。


「マコト様!!」


 彼女は俺に駆け寄る。


「シスターマリー。早く船に乗るんだ。ここは、危険だ」

「でしたら、マコト様も早く」

「……俺は、いい」

「……え?」

「……俺は、最後まで奴らと戦う」

「マコト様!?」

「奴らに殺された家族の仇を討つ……! あんたは、先に逃げてくれ……」

「嫌! マコト様も……マコト様も一緒に!!」

「頼む……俺は貴方を、死なせたくない」

「……マコト、様」

「そこのあんた。このシスターを頼む」

「あ、ああ……!」


 近くにいたおっさんに声をかける。

 おっさんは俺達の話を聞いていたのか、神妙な顔で頷いた。


「……じゃあな。……昨日は話を聞いてくれてありがとう……マリー」


 俺は背を向けて走り出す。


「嫌ああ!! マコト様! マコト様っ! マコト様ああああ!!」


 マリーの悲痛な叫び声に背を向け、町の中へと。




 魔王軍の本部で寛いでいると、「不機嫌です」と言わんばかりの表情でフィレーネが話しかけてきた。


「……随分と、慕われている様子ですね? マコト」

「なんで怒ってるんだよ。フィレーネ」


 それにしても、我ながらちょっとかっこよく去れたのではないかと思う。

 なんにせよ、これであのシスターは俺が死んだと思い込むだろう。


「まあ、なんにせよ、あとは魔王軍がこの町を占拠すれば、俺の任務は終わりだな」

「ええ、そうですね」


 人間の軍隊はもはや壊滅状態。軍としての体裁すら残っていない。

 色々と面倒なことはあったが、ようやく終わりが見えてきた。


「召喚魔法の勉強も進められるな」


 思えば、勉強も途中で放り投げたままだった。

 帰ったら、フィレーネに続きを教えてもらわないとな。


 恐らく今までの経験上、召喚されたあの瞬間から、時間はそうそう経過していないはずだ。

 帰ったらまずは何をしようか? そういえば仕事もあるんだった……。

 思い描くのは、日本へ戻ったときのこと。


 だが、物事はそううまく進まなかった。


「うわああああ!」

「きゃあああ!」

「なんだ!?」


 悲鳴が轟く。

 それは人間のものではない。魔王軍のものだった。


「ご、ご報告申し上げます! 人間の中に聖女が紛れていた模様です! その女が、真っ直ぐにこちらへ向かってきています!」


 名前も知らない、リザードマンの兵士がそう俺達に報告する。


「……聖女ですって?」

「なあ、聖女ってなんなんだ?」

「ああ、マコトは知らないのですね? 聖女というのは、神に愛されたとされる、純真無垢な人間の女のことを言いいます。まあそれはただ人間が自分で言っているだけなので、マコトはただ力の強い女とでも覚えておけばいいですよ」

「なるほど……だけどまあ、聖女っていうからには、やっぱり職業もそれに近いやつ、なんだろうなあ……」

「そうですね……何故か私達に対しては強力な力を発揮するので、聖女は厄介なのですが……。……随分と、早い再開でしたね、マコト?」

「……まったくな」


 何やら光を纏って俺達の前に姿を現したのは、あのシスター。


「そこの魔族! マコト様を解放しなさい!」


 マリーだった。


「あらあら、随分と猛々しい聖女様ですね」


 マリーは体から光を放ち、その体から吹き出ている力の圧で髪を、衣服をはためかせている。

 彼女の目は俺を……いや、正確には、俺とフィレーネをとらえている。


「フフフ……」


 フィレーネが妖しく笑みを浮かべ、俺の体を優しく抱きしめる。

 そしてマリーに向けて、こう言い放ったのだった。


「……もう、この男は私の虜。残念だったわねえ、光の聖女様?」


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