十二回戦【試合終了】
〈第十二回廃剣インタビュー〉
はい、始まりました~廃剣インタビュー!
司会進行は二回目オレ、斉藤元がやらせていただきます!
今回はオレの前からの疑問……
大我と椿と風ちゃんの幼なじみの三人組の関係だ!
中でも、大我と風ちゃんの関係!
っということで、一番関係が深い椿に来てもらった!
では、Let's interview!
元「ということで、聞いたことは答えてくれるかい?」
椿「ん? 別にいいよ~」
元「じゃぁ、大我と風ちゃんの関係は?」
椿「ズバリ聞くね~」
元「オレはそういう男だ。」
椿「まぁ、そうだな。大我と風香の関係? そんなん見れば分かるだろ。単なる風香の片想いだよ。」
元「ですよね~っで、大我は?」
椿「ん? 気付かずスルー。」
元「ですよね~あぁ、可哀想な風ちゃん……」
椿「それを分かって、片想い中だろ。」
元「健気……健気過ぎる……何なのあの子!」
椿「ははは~俺は全く関係ないけどね~」
元「なに開き直ってんだよ……」
椿「見てて面白いじゃん(笑)あっ、大我が来た。じゃ、俺ドロンするわ!」
元「っておい! ドロンって古い! ってか、何で逃げんの!? ちょっ、待てよ!」
元、椿共に逃走。
大「なんだ? あいつら。」
=終了=
『大我、大我は剣道好きか?』
『うん、すき! とうさんがおしえてくれるから。とうさんは剣道のどこがすきなの?』
『ん? 父さんは、試合が始まる前が大好きなんだよ。』
『しあいがはじまるまえ? なんで?』
『試合前って言うのはね、手の震えが止まらないほど、緊張していて慎重になるんだ。その雰囲気がお父さんは好きなんだよ。』
『キンチョウ? シンチョウ?』
『大我にはまだ難しいか。でも、いつか分かる日が来るよ。それが分かる日までにもっと強くなろうな。』
幼いことに父さんが言った言葉を思い出した。
あの日父さんの言った言葉の意味が今日やっと分かった。これが手が震えるほど緊張するってことか……
椿が試合している間もウォーミングアップをしながらも手が震えていた。
負けるかもしれない。負けたら、俺がこのチームの足を引っ張ることになる……
それは嫌だ、俺にとってこのチームはとっても大切なチームなんだ。そんなチームの邪魔したくない。
「メエェェェェェェェン!」
試合コート内に相手の声が響き、椿の動きが止まった。目が泳ぐ。
椿が打たれた……
椿もゆっくりと審判の動きを確認している。素人の俺の目から見ても今の面は入っていた。
どうしよう……このままだと俺の試合でこのチームの勝敗が決まってしまう……
「緊張するな、は無理だろうが責任を感じることはない。責任を負うとしたら、俺と森羅だから。」
そんな不安に襲われた時、煌希先輩が隣に来て面紐を直しながら話してくれた。
「そうや、今回これで取られへんかったら、俺と煌希が悪いねん。責任は俺たちが取る。やから大我はそんな悩まんでええで~いつも通りで気軽に行こうや!」
手拭いを頭に巻きながら俺に笑いかけてくれた。
気軽に、か……そうだ、俺は俺の武器を探すために今回試合をするんだ。
他のことは関係ない。俺の試合をするだけだ。
「椿! 切り替えろ!」
コートの中で呆然としている椿の叫ぶ。
そうすると、椿の雰囲気が一気に変わった。
怒った? いや、あれはプライドだ。元々異常なほどプライドの高い椿だ。しかも、今のこの状況で負けるなんて、椿からしたらいらついて仕方がないはず。プライドを傷つけられたら椿の恐怖は俺が一番知っている……
それから椿の動きが変わった。必死と言うか、ただ無我夢中に相手の竹刀を受けていた。
まだ慣れない試合に、必死に食らいついている。そんな姿は今まで俺が見たことのない、椿の姿だった。
赤ん坊の時からずっと一緒にいる椿は、何をやっても完璧にこなしてひょうひょうと過ごしていた。必死に何かをしている俺を他人事の様に見ていて、俺の手助けをしてくれた。そう、あくまで手助け。
手助けしかしたことなかった椿が、必死になった所なんか見たことなかった。
そんな椿が、剣道の試合に必死になっている。それが俺にとって、嬉しくもあった。
そして、それから少しして試合終了のブザーが鳴り響いた。
守りきった、打たれなかった。そんな達成感が椿から感じられた。
椿、お疲れ様。
俺は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐く。気持ちを落ち着かせてコートの前に立つ。少し沈んだ雰囲気が感じられる椿が下がってきた。俺をちらっと見たが目を合わせようとしなかった。負けた事に責任を感じてるのだ。
「お疲れ、良く粘ったな。あとは任せろ。」
笑顔で拳を椿に突き立てる。椿は俺の拳を見て初めて俺の顔を見た。そして、一回頷いてコートを出て行った。
椿は良く頑張った。
今度は俺の番。俺がこの戦場に立つ番だ。あれ、戦場って考え方、元みたいだ……あいつのが移ったか? そんな事を思い、少し笑ってしまった。笑いを殺してコート内に入り、蹲踞。
相手を見ると、明らか経験者。身長は俺よりも遥かに高く、170cmは超えてるだろう。
さぁ、俺の初試合。
俺の武器を探す戦い。
篤と御覧あれ!
「初め!!」
審判の声と共に二人同時に立ち上がる。試合開始。俺の戦いだ。蹲踞から立ち上がり構えてまずは相手が出るのを待つ。
「リャァァァァァァ!」
相手は始まってすぐに、いきなり面を打ってきた。初心者の俺を、さっさと終わらせたかったのだろう。
しかし、これは俺の計算通りだ。
『えぇか。経験者からみたら初心者は一目で分かる。これは事実やし、しゃぁないことや。でも、それを利用せな。』
きつい練習の後、死にそうな俺に森羅はそう言った。利用? 初めはその意味が分からなかった。
相手が面を打って来たのと同時、いや俺の方がちょっと早いタイミングで相手の懐に入り込む。上手くいった。後は身に任せる。
『相手は初心者やと分かるとすぐに決めようと面を打って来る。その時に―』
体を右に倒し、竹刀を床と平行に傾け、相手の胴体を真っ二つに斬る。
「ドォォォォォォォ!!」
声を出し、懐から相手の横へと抜ける。音も残心も完璧だ。抜けた後、振り返り相手の方を向き審判を確認。白旗が三本真っ直ぐに上がっていた。
俺はゆっくり開始線まで戻り構える。相手は何が起きたか分からぬままに開始線へと戻っていった。まさか、初心者が抜き胴を使うとは誰も思わないだろう。実際、ちらりとコート外を見ると煌希先輩と先生は驚いていた。
とりあえず、これで一本。
意表を付いてやった。初心者だからって嘗めるなよ!
しかし、本番は二本目だ。相手も真剣になりだすし、もう抜き胴は使えない。ここからが気が抜けない勝負になる。
「二本目!」
審判の声がコートに響き渡り、拍手が周りに響く。
相手も真剣になり、間合いを計り俺の隙を伺っている。
俺は相手との一定の距離を保ち、それ以上近くもならないし遠くもならない距離で構えている。
『もし、それで一本取った場合。決して危ない橋は渡ったあかん。相手の攻撃は確実に止めて、無理やと思ったら打たんでいい。』
森羅先輩に言われた事を忠実に守る。相手の打ちをとことん防ぐのに集中する。
それにしても、相手の打ちが激しくなってきた……竹刀で打突を受ける度、腕がしびれる。
こいつどんな力で打ってんだ!?
でも、もうすぐタイムアップだ……それまで、ブザーが鳴るまで保ってくれ俺の腕。
そんなことを考えている間に鍔迫り合いで体のバランスが崩れた。
しまった! このまま打たれたら完璧一本になっちゃう……
バランスをギリギリで保ち、竹刀と腕で頭を守る。相手の打突を腕で受け止めた。その当たった場所が竹刀でも小手でもない。腕に相手の打突が直撃した。
その瞬間、試合終了のブザーが鳴った。
やっと、終わった……
俺、勝ったんだ……
不思議に拍手の音が大きく聞こえた。
開始線に戻り、構えて蹲踞。ゆっくり下がりコートの外線近くで止まり礼。
振り返ると煌希先輩が俺に拳を突き立て“よくやった”と小さく呟いて入れ替わりでコートに入っていった。
俺はすぐに椿の隣に座り、面を外す。一気に外の音が俺の耳に入ってくる。
「お疲れ。そして、初勝利おめでとう。」
手拭いで汗を拭いていると隣から声が聞こえてきた。
横を見ると椿がさわやかな笑顔で俺に笑いかけていた。
つ、つつつ椿が笑ってる!? いや、笑うのはあるけど……こんな裏のない笑顔は滅多にないぞ!? 幼稚園の時以来こんな笑顔ないぞ!
剣道することによって椿も何かが変わっていってるのだ。今まで負け知らず、負けず嫌いだった椿が剣道という新しい道を歩いていくことによって何かが変わり始めているんだ。幼なじみとして嬉しい事だ。
「志導、外山。よく頑張ったな。初試合でここまで出来たら上出来だ。外山はよく粘ったな、取られたことは気にするな。志導、お前あんな隠し技あったのか~よくやった。武器の部品を見つけたな。」
先生が俺たちの間に顔を出し、頭を撫でてくれた。先生は俺達にニコニコの笑顔を見せて、元いたところに座った。
「大我! お前すごいな!? あの抜き胴、格好良すぎだぜ! さすがオレが認めた男、土方歳三だ!」
椿の向こう側から顔を覗かせた元が言った。元はニカニカと八重歯が特徴的な歯を見せながら俺の試合の評価を言った。
いつ俺がお前に認められたって? それに、なんで土方歳三なんだよ……
「俺はお前に認められた記憶はないぞ。それに、誰が土方歳三だ……っていうか誰だよ。」
「そりゃ、さっきオレが決めたんだ! って、土方歳三知らないのかよ!? 新撰組の副長だぜ!? 長有名じゃんかよ! 昔から……」
「はいはい、わかった……それは後で聞くから今は先輩の試合に集中しろ。」
俺は元が語り出しそうになったので、それを静止しコートを指さす。煌希先輩はちょうど蹲踞から立ち上がったところだった。
こいつは新撰組の事となるとすぐ語り出すし五月蝿いからなぁ……
ふと観客席に目をやると観客が一斉に拍手をし出した。
そう言えば……試合が始まった時より観客が増えているような……?
「なぁ、なんか観客増えてないか? オレの気のせい?」
元も椿も俺と同じ事を思っていたらしく、首を傾げていた。
「あぁ、観客な~どうも俺達有名みたいでな~煌希と俺の試合の時はいつも観客が増えるんよ~まぁ、煌希は地区大会の優勝者やしなぁ~当たり前と言ったら当たり前なんやけどな。」
観客の数にびっくりしている俺達に森羅先輩はアキレス腱を伸ばしながら言った。
そうか、煌希先輩は地区大会の個人戦の優勝者だもんな……そりゃみんな見たがるだろうな。
実際今戦っている煌希先輩の様子はとても落ち着いている。完全に試合慣れしている。
「そうなんですか。そう言えば、その時森羅先輩の結果はどうだったんですか?」
椿が煌希先輩の試合から目を離さないで聞いた。
そうだ、俺が見る限り二人の力はほぼ互角。いや、少し森羅先輩の方が勝っているぐらいだ。
なのに、なんで森羅先輩は入賞してないんだ?
「ん、俺? 俺はその大会の一週間前にサッカーでめっちゃいいゴール決めたらポールに足ぶつけて、骨折してん~せやから、俺はその試合出てないねん。まぁ、出たとしても一回戦で煌希と当たるから分からんけど~」
…………理由が子ども過ぎるだろ!
サッカーで骨折って、子どもだろ。しかも試合前にサッカーなんかしちゃダメだろ。
ハハハと笑う森羅先輩から試合をしている煌希先輩へと視線を変える。
煌希先輩の剣道はとても静かだ。川の流れのように静かで時に荒い。
打てそうで打てない間合いを保ち、相手の出方を窺い隙が出来るとすかさずにそこを狙う。煌希先輩は部位に当てるのがとても上手く、隙さえ見つけ出せれば確実に入る。
「コテェェェ!」
ほら、入った。
確実に小手を決めて開始線に戻る。
二本目は相手が動き出す前、始まってすぐに素早い面で決まった。
試合時間は約1分半。早々と試合を終わらせて煌希先輩は帰ってきた。
「よっしゃ、ほな俺も行ってくるわ~」
そして、森羅先輩もコートへと歩いて行った。
煌希先輩と軽く拳を合わせコートに入る。逆に煌希先輩は俺たちの方へと歩いてくる。
そして、俺の隣に座り面を外し手拭いを綺麗に畳んで面の中に入れた。
「とりあえず、これで鷹虎は出れるよ。」
煌希先輩はそう遠回しに勝ったと伝えて、目を閉じた。
瞑想? と思ったが、数秒後煌希先輩から寝息が聞こえた。この人試合中に寝てる! それだけ森羅先輩の試合に興味ないのかな?
「あぁ、気にしないでくれ。煌希は試合が終わったら寝るんだ。森羅が勝って、負けないって信じてるんだ。」
森先生はそう言って笑い、正座だった足を崩し胡座をかいた。先生も安心しきってるんだ。
それだけ、森羅先輩が強いって事なのかな?
試合が終わったのは、試合が始まって5秒だった。
審判の始めの合図がし、1秒で速い面打ちで一本を取った。
その早さは煌希先輩よりも速く、今まで見た中で一番速く、俺の目では速すぎて分からないぐらいだ。
そして二本目、それは3秒で出小手を決めてさっさと試合を終わらせた。
森羅先輩の試合は速すぎて、観客の歓声がワンテンポ遅かった。観客の人も先輩の技が速すぎて見えなかったのだろう。
相手も自分が何を見られたか分からないままに試合が終わってしまったらしい。
二人は蹲踞をして下がってきた。
「さぁ、整列するぞ。」
いつの間にか起きていた煌希先輩が呆然としている俺の頭を叩き立ち上がった。そうだ、試合が終わったら整列しなきゃ駄目だ。俺も椿と元に合図して立ち上がる。
面を被ったままの森羅先輩の横に一列に並び、コート内の中央まで歩く。
「お互いに礼!」
審判の号令で一斉に礼をする。
礼をすると観客の歓声が大きくなった。
勝った。先輩の凄さで忘れていたが、勝ったんだ。
俺たちの初試合。
さぁ、十二話が終わりました。
長い長い試合が終わりましたね(o^∀^o)
今回は全て大我目線でしたね。単に作者がめんどくさかっただけです。
次話は久々に鷹虎が出てきます!(b^ー°)
向龍中学校剣道部は一体何回戦までいけるのか!
乞うご期待(」゜□゜)」
では、Have a nice day!