国の暗部で『魔法少女』として育てられた女の子、拾ったらステーキを素手でいくタイプだった
魔法少女を拾った。
ので、ファミレスに連れて来たところだが。
「おっさん、この肉うめェなぁ!」
「フォーク使いなさい!! 素手ダメ!!!!」
とんだ野生児を拾ってしまった場合、どうすれば良いのだろう?
「これ何の肉使ってんだ? ワニ? カンガルー?」
「そんな珍味が500円未満で食べれるワケないでしょうが」
「卵ちっちぇなー。エミューはもっとバカデカかったぞぉ?」
「なんでオーストラリア産の生き物ばっか食べたことあるの?」
ボロボロとはいえ、魔法少女らしいフリフリ衣装着た子がここまで礼儀もないとは思わなんだ。
このガツガツ手掴みで肉をかき込む生命体が、魔法少女だなんて……てか普通に食い方汚っ。
――――魔法少女。
人体改造で特殊能力を身につけた少女たちの総称。
街の治安維持からテレビでのアイドル活動までこなす国民的スターだ。
「半信半疑だったが、噂はマジみたいだな」
魔法少女に志願した女児達は養成機関に入り、そこで選ばれたエリート中のエリートだけがなれる職業――と表向きではなってる。
だが昔から黒い噂も絶えなかった。
身寄りのない子どもや実験で産まれた子どもが教育させられるとか、遺伝子改造レベルの手術で魔法少女にさせられるとか。
素手でトイレ掃除するような教育があるなんて都市伝説まであった。
「この子も、そうやって……」
政府が裏で育てた魔法少女、に違いないだろうな。
ランドセルの方がデカいぐらいの背丈で、兵士として育てられてたのか。
信じられねぇ。
こんなボサボサピンク髪でほっぺもぷにっとした可愛い女の子だぞ。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「魔法少女ナンバー4649」
「えぇ、番号管理ぃ……」
「通称は夜露死苦」
「やかましいわ」
ひとまず『ヨッちゃん』と命名しよう。
「ヨッちゃんは入隊する魔法少女隊ってどこか決まってたの?」
「ンいや、入る前に追い出された。適性検査落ち」
「ちなみに理由は?」
「性格が凶暴すぎる」
「もう中学生と同じ理由かよ」
魔法少女ってピュアな心の持ち主が選ばれるんじゃなくて、ちゃんと教育が施された子だけ採用されるんだな。
芸能界の闇をゴシップ誌で見た時みたいな気分。
「じゃあ逃げてきたってより捨てられた感じなのか」
いくら魔法少女適性が壊滅的とはいえ、ヨッちゃんは年端もいかない子どもだ。
女の子が路地裏で行き倒れるかもしれないってのに、政府の人間は何やってるんだ。
「けどこんな明らかな地雷物件拾うなんて、おっさんも物好きだなー」
「そりゃ、ほっとけないでしょ」
「まさかロリコン? だったら魔法少女の粛清対象だけど?」
「人の善意を捻じ曲げて解釈すな」
「なんだよー。ロリコンなら寄生するなりサツに突き出すなりで色々できたのにさぁ~」
訂正、この子は路地裏でも生きていける。
短期間でスラム街の王になってるか、裏組織でのし上がってても不思議じゃない。
『ロリコンじゃないなら何もしない』とは言ってるから、堅気には手を出さない一線はあるみたいだけど。
……ホントに俺が保護するべきか? 逞し過ぎない?
「で、おっさんはナニモン?」
「まずおっさん呼び止めなさい。大塚お兄さん、二十七歳だ」
「結局『おっさん』じゃんかー」
「全国二十万人の大塚さんが殴り込みに来るぞ」
「仕事はぁ?」
「あらゆる製品をコーギーのケツと同じ触感にする会社の営業」
「需要高ぇけど費用対効果わるそー」
ツッコむ時だけ語彙力上がるなこのメスガキ。
「にしても魔法少女拾うなんて物好きだよなぁー」
「だな。おかげで小さい頃の夢が現在進行形でブチ壊されてる」
「んあー? おっさん、もしかして魔法少女ファンだったカンジ?」
「四歳の頃に観た『魔法少女☆マグな・かるた♡』から追っかけしてんだよ」
「ガチガチのファンじゃんかよー」
「初恋はエリコちゃん。次点でミホちゃん」
「それ阿佐ヶ谷姉妹じゃね?」
と、いかんいかん。これ以上は魔法少女オフ会議並の長尺語りになってしまう。
「とにかく魔法少女ファンとして……の前に人として! そこらをうろつく女児を放っておけません」
「ほーん。やるやん」
「やるやんって他人事だな。そもそもお前なぁ……」
「でもマージでおっさん良いヤツだなー。こんな汚いナリのガキに飯食わせるなんて」
「そりゃ、あんなとこ見ちゃね」
この先もきっと忘れられないだろう……
小一時間前、ヨッちゃんを初めて見た瞬間。
玄関を開けた時に見た光景を――
「庭先で飼ってるジャーマンシェパード捕食しようとしてる女の子を保護しないわけにいかないだろ」
「あの犬硬かったー。隣のウサギん方がうまかったぞー」
「吐き出せ吐き出せ今すぐリバースしなさい!!」
「パニクって意味分かんないこと言ってんぞおっさん。魔法少女の消化機能ナメんなよー?」
そういえば魔法少女は爆発物を飲み込んでも体内で処理できる訓練されてるんだった!
つまり今頃、ウサちゃん達は……お隣さんに菓子折りと線香用の人参用意しないと。
「きゃあああああああああああああ!?」
突然店内に悲鳴が響いた。
「クケケケケ! ニンゲン共、絶望の準備はできてるかァ!!」
現れたのは怪人。魔法少女の敵だ!
蝶ネクタイをつけたハムスターの獣人みたいな姿をしてやがる。
ちょっと見た目可愛い。
「オレ様はバハムート・スター様だ。動物たちの恨みを晴らしにきたぜ!!」
なんというベタ!
全男子が学校にテロリストが来た時にする妄想ぐらい、魔法少女ファンが夢に見たシチュエーション!
「動物を食うんじゃあねェ! この世のモフモフは全てオレ様のもの……なのにモフモフだった生き物を食べるとは! 貴様ら、許せねェぜ!!」
なんというファンシーな理由!
「貴様らもモフモフの小動物にしてやろう! きゃわいいモフモフ動物たちの恨みを味わうとイイ!!」
これだよ、俺が魔法少女との戦いに求めてる要素は!
シリアスな状況なのに癒される絵面。目が健康になる。
とはいえ相手は怪人だ。うかうかしてたら無事じゃすまない。
「チィッ、白昼堂々と怪人かよ……ヨッちゃん、まず避難しよう」
「焦るほどかぁー? 普通に居るじゃん、このレベルのやつ」
こ、これが魔法少女なのか。
怪人が目の前でもこの冷静さ。やっぱりただ者じゃない。
「見た目おっかない犯罪者より、殺人衝動のブレーキない同僚サラリーマンの方が怖くない?」
「そりゃそっちのがおっかないけど!」
「普通の顔してる人でも包丁隠してズブリしない保証にはならないよ?」
「やめて。明日から会社行けなくなっちゃう」
生々しいリアリティを出さないでいただきたい。
「さ、さっきからゴチャゴチャと……」
怪人バハムートさんがこっちに気付いた。
「ヨッちゃん、ここは魔法少女の力の見せどころじゃない!?」
「無暗に力使うと怒られんだよー。市街地でピットブル駆除にグリズリーの群れ放つようなモンだぞ」
「そこまでピーキーな力だったんだね君ら?!」
「ま、しゃーねーなー。飯貰った礼にやったるかァー」
ちゃっかり俺のハンバーグまで食ったヨッちゃんが席を立ち、そのまま怪人の方へ。
肩を回して臨戦態勢だ。
ついに、念願の魔法少女の戦いを生で観られ――――
「ほい、消火器」
「ぽテとッ!?」
うっわ、後頭部いったよこの子。
近くの消火器を片手でいったよ。
洋画で窓とか割る要領で後頭部フルスイングだよ。
「はい飲ーんで飲ーんで飲んで飲ーんで飲ーんで飲んで」
あ、ダメだ。消火器のホース咥えさせ始めた。
「ヨッちゃんストップストップ、ハバムート君が死んじゃう!!」
「おっさんなんで怪人側の味方してんのー?」
「怪人でも可哀想でしょ! モフモフ獣人ぶん殴るのは!!」
だってそこそこ血液スプラッシュしてるし、頭蓋骨が若干凹んでるように見えるしさ。
「おっさんさ、テレビは映像に修正かけてんかんな? 血とか臓物出ても編集で消してるだけだかんな?」
「魔法少女の中継で一度も見た事ないわ! モザイクすらねぇよ!」
「虹とかキラキラで誤魔化してんだよ」
「なんでバラエティのゲロみたいな隠し方になってんの」
「つーか玄人は血ごと蒸発させてっから映らねぇだけだぜー?」
「知りたくなかった知りたくなかった知りたくなかった」
クリオネの捕食シーン見ちゃった気分。
「せめて拘束ぐらいは魔法でさぁ」
「魔法なんて殺生な……ここは物理で平和解決しよ?」
「名目上は法治国家の日本でやらかしちゃいけない所業なんだよ、消火器窒息は」
「ダーイジョブだって~。怪人は常人より耐性高いし、肺が爆散する程度ならギリ即死しないって」
「死ぬ前提でコンボ組むな! 小っちゃい子そこらで見てるでしょーが!!」
こんなところ見せたらトラウマ確定だ。
俺が、俺が守護らねぇと……子ども達の『魔法少女』という夢を!
「あのー、お客様……」
「あ、すみません店員さん! 今の内に通報を――」
「こちらのお皿は下げてもよろしいでしょうか?」
「脳漿沸きちらしてるのかテメェ!?」
非常時まで接客の鑑しなくて良いんだよ!
「私がまだ食べてるでしょうが!!」
「黙れ小娘!!!!」
二方向から同時にボケるんじゃねぇ!!
処理追い付かねぇでしょうが!!!!
「うぐ、だ、だずげで……」
「怪人、アンタは自業自得だ。大人しく捕まっときな」
「わ、わがっだがら……股の間、膝で潰ざないで……」
「ヨッちゃんズレてあげて! 拷問なら十分食らってるから! 今!!」
下腹部を魔法少女のパワーで圧迫され続けてたんだ。内臓破裂しててもおかしくねぇぞ。
怪人の足、ちょっとうっ血してるしさ。
「おっさんはうっさいなー」
「もう可哀想だから。ヨッちゃん、消火器をこっちに渡しなさい」
「ほーい」
「お客様、消火器は皿と一緒にお下げいたしましょうか?」
「脳髄爆散店員コラ先に通報だろうがコラ!!」
サイコ共が!
この逸般クレイジーピーポーが!!
「ゆ、ゆるじでぐだざい……逃がじまずがら」
ああ、哀れな怪人バハムート君が這いつくばって……なんかお腹の方から出てきた。
ナニコレ? モフモフした球体がもぞもぞと……あ、ウサちゃんだ。
この人お腹にウサちゃん隠し持ってたんだ。
「あ、さっき食い損ねた方のウサギ」
「見逃しなさい! ウサギさんハーリーハーリー!!」
お隣さんのウサちゃんの生き残り!
オマエだけでも逃げ延びるんだ! そして敵討ちのために駆逐しに来い!!
「失礼! 怪人が出現したという現場はこちらですか?」
「おさわりまーん! 騒ぎの震源地ここです! ピンク髪の小娘です!!」
「ピンク髪の……は、魔法少女では? 担当色的に」
「アレを魔法少女に分類しちゃダメです。魔法少女に似た災害か何かです」
喩えるなら、タヌキとアライグマ。
カレーライスに対するハヤシライス。
エイリアンVSプレデターに対する、エイリアンVSアバター!
「ところでお巡りさん、あの魔法少女はどこへ引き渡せば」
「あ、民事不介入なので」
「どう見たって刑事事案一歩手前では?」
「魔法少女相手に警察は出れなくて……」
「このまま野に放つぞアレ」
「それは不法投棄なので勘弁して下さい」
「じゃあこっちで引き取れってか?」
「はい、民事不介入なので」
これ何言ってもダメなやつだ。
しっかり止まったのに一時停止違反で青切符切ってくる時と同じ強引さだ。
「で、肝心の怪人はどこに?」
「ああ、被害者だったらそこに――」
ハバムート君はいつの間にか巨大鉄板の上に転がされてた。
焼き土下座、どころか五体投地で腹這い状態。
そしてこっちから見えない角度で、ヨッちゃんはハム公だった肉を素手で食ってた。
「おっさん、肉食う? 味ほぼラムだぜ」
「食べるならフォーク使いなさい!!!!」
ひとまず……エジソン箸から使わせてみよう。




