イントロダクション
人が空を見上げた瞬間、言葉は意味を失う。
そこには、現実の色とは思えないほど深く澄んだ水色が広がっていた。
青でもなく、白でもない。まるで世界が息を止めたかのような色。雲は一片もなく、空は限りなく遠い。
星々は昼の名残を宿したまま、淡く、しかし確かに瞬いている。
その光は冷たく、同時に優しく、見る者の胸を静かに震わせた。この場所では、天と地の境界が曖昧になる。
空は頭上にあるのではなく、すぐそこまで降りてきているかのようだった。
手を伸ばせば、指先がその青に溶け込んでしまいそうな錯覚さえ覚える。
人は、理由もなく理解する。ここは、人の世界の続きではない。
ここが――
エベレスト探索隊の列の中で、一人の女性隊員が靴ひもを結ぼうとしゃがみ込んだ。
そのとき、彼女の視界に場違いな物が入り込む。女性は思わず、その場所をまじまじと見つめた。
そこには雪が降り積もっていたが、一部から皮のようなものが覗いていた。
彼女は慎重に、指先で雪を軽く払いのける。次の瞬間、彼女は大きく目を見開いた。
「……た、隊長!」
「どうした?」隊長が駆け寄ってくる。
女性は、皮が見えていたその部分を指さす。
「これは……大発見だぞ……」隊長が、静かに、しかし冷静に呟いた。
隊員全員の視線が、その先へと集まる。
そこには、雪と岩に包まれるようにして、静かに眠る一人の男の姿があった。




