第99話 ひかりの神聖魔法 ― 光が導く未来
戦場はなおも混沌の只中にあった。
ベヒーモスやSランク冒険者を退けてもなお、圧倒的な数の敵兵と魔物が押し寄せ、こはるやセレナ、サンライズ、そしてグランや魔族たちは最前線で血と汗を流し続けていた。
剣戟と咆哮が交錯し、地は裂け、空は炎と雷で覆われる。
誰もが息をつく間すらなく、戦いは続いていた。
■王城の思索
その頃、リベルノア王国の王城。
ノア国王は険しい面持ちで戦場を見下ろし、低く呟いた。
「……どうすれば、この流れを覆せるのか……」
沈黙を破ったのは、クレア王女だった。
「大丈夫です。……グランたちを信じましょう」
しかし第一王子は唇を噛み、拳を震わせる。
「僕たちは何ができるんだ? 国民は命を懸けて戦っているというのに……」
「兄さん……」と、第二王子が小さく声をかける。
その時、ミシェル女王が立ち上がった。
「では、私たちは今できることをしましょう。――厨房へ行って、兵たちがすぐに口にできる食事を用意します。たとえ小さなことでも、必ず力になるはずです」
その言葉に国王も頷き、王族たちはそれぞれの役割を果たし始めた。
■魔王国の危機
一方、魔王国。
「報告! 数百匹の魔物がこちらへ接近中!」
近衛騎士団の叫びに、団長が鋭く指示を飛ばす。
「すぐに防衛陣を敷け!」
ここには、リベルノア王国やイーストランドから避難してきた人々が身を寄せていた。
不安に震える民は互いに抱き合い、ただ祈るしかなかった。
「これが……戦争……」
ひかりは呟き、胸の奥で強く祈り続けた。
その肩に、大きく温かな手が置かれる。
グランの父リオだった。
「ひかりさん。グランから聞いています。……私たちと一緒にいなさい。親として、あなたを守ります」
そして、隣に立つ母レナが優しく微笑む。
「大丈夫。グランたちが必ず勝つわ。あの子は、私たちの自慢の息子だから」
その言葉に、ひかりの胸の震えは少しだけ和らいだ。
だが――魔物の群れは確実に迫っていた。
■光の奇跡
「神様……どうか……みんなを助けて……!」
必死の祈りが胸を突き破った瞬間、ひかりの身体に強烈な熱と光が走った。
気づけば、彼女は防衛線の最前へと駆け出していた。
近衛騎士団が魔物と激突する戦場の目前。
ひかりの唇が自然に動き、聞いたことのない詠唱を紡ぐ。
――次の瞬間、光が爆ぜた。
眩い輝きが戦場を覆い、数百の魔物が悲鳴を上げる間もなく光に呑まれ、塵と化して消え失せる。
それはまるで神が降臨したかのような光景だった。
「……これが……神聖魔法……?」
近衛騎士団団長の声は震えていた。
ひかりは力を使い果たし、その場に崩れ落ちる。
駆け寄った団長が彼女を抱き上げ、驚愕と敬意を込めて叫ぶ。
「この娘は……失われた古代魔法の使い手だ! 神聖魔法――伝承でしか語られなかった力だ!」
即座に命令が飛ぶ。
「急ぎリベルノアの救護室へ運べ!」
■グランとの邂逅
搬送の途中、救護室へ戻ってきたグランと鉢合わせた。
「どうした? その娘は……」
団長は深く息を吐き、答える。
「信じがたい光景でした。彼女は神聖魔法を行使しました。……まるで神々の奇跡のような輝きでした」
グランは目を見開き、すぐに察する。
「……やはり、そういうことか。急げ! 救護室で看護を!」
仲間にひかりを託し、彼は再び戦場へと舞い戻っていく。
その背には、魔王としての威厳と、人間としての覚悟が宿っていた。
そして空に雷鳴が轟く。
新たな光の到来は、確かに戦況を変え始めていた。




