第98話 蓮とナツ ― 共鳴する力
救護室に運ばれたフェンリルは、薄れゆく意識の中でグランと目を合わせた。
互いに言葉は交わさなかったが、その一瞬で心は通じ合う。
グランは静かに頷き、フェンリルは安堵の笑みを浮かべると、そのまま深い眠りへと落ちていった。
――その頃、別の戦場では。
蓮は四季連合国のSランク冒険者パーティー四組、計十二名と、さらに数体の災厄級モンスターを同時に相手取っていた
第91話蓮とナツ
。
本来ならば一人ひとりは脅威ではない。
だが、ミリアの施した強化魔法が彼らの力を常軌を逸するほどに引き出し、連携も悪夢のように洗練されていた。
「……っ、きりがない……!」
蓮はチート級と呼ばれる魔法で応戦し続けたが、消耗は隠せなかった。
次第に息が荒くなり、額には汗が滲む。
そのとき――漆黒の影が戦場に差し込む。
ユエとナツが現れたのだ。
ユエは冷ややかに告げる。
「ナツ、今回はあなたが戦いなさい」
「……母さん」
「私がかけるのは“本物”の強化魔法。見せてあげましょう、ミリアに」
ユエの詠唱と共に、漆黒の魔力が広がり、ナツの身体を包み込む。
次の瞬間、彼の姿は変貌を遂げた。
悪魔を超えた存在――まるでデーモンロードのごとき威容。
同時にユエの強化は蓮の魔力にも重なり、彼の詠唱と術式はこれまで以上に精緻で速くなる。
「……これが悪魔の力か。だが、不思議だな。恐ろしくはない……優しさを感じる」
蓮の呟きに、ナツの胸も熱く震えた。
「本当に今……人間と魔族が共に戦っている。
種族は違っても、分かり合える。きっとまた、人間は人間で、魔族は魔族で争うこともあるだろう。
それでも、歩み寄れば――平和な世界に近づけるはずなんだ」
二人の言葉は力となり、戦場に響き渡った。
ユエはその姿を見つめ、微笑んだ。
「……強くなったね、ナツ。父上もきっと驚くわ。二千年前に敵対したはずの者と、こうして肩を並べて戦っているなんて。やっぱり、あなたは凄い主ね」
その瞬間、戦況が一変した。
蓮の魔法は矢継ぎ早に放たれ、敵を次々と撃ち砕く。
ナツの圧倒的な力は災厄級モンスターをも容易く屠り、その咆哮が戦場の空気を支配する。
Sランク冒険者たちはついに撤退を余儀なくされ、災厄級も全て地に伏した。
吹き荒れる魔力の余韻が消えたとき――戦場の一角は完全に制圧されていた。
蓮は大きく息を吐き、ナツと視線を交わした。
互いに言葉は少なかったが、その目には確かな絆と信頼が宿っていた。




