第97話 全面戦争 ― フェンリルとベヒーモスの激闘
リベルノア王国、イーストランド、魔王国――。
三国連合の五万の軍勢は、剣聖の国と四季連合国の二十万の大軍と対峙していた。
三ヶ月の間に備えを整え、魔物の数を削り続けてきたグランたち。
しかし、戦況はなおも拮抗し、押し引きの応酬が続いていた。
その最中――。
「な、なんだあれは……!」
兵の一人が絶叫する。
黒い雲を突き破り、地響きと共に現れたのは、災厄級をも凌駕する巨影。
全身を鎧のような甲殻で覆い、山すら踏み砕く四肢を持つ怪物――ベヒーモス。
ミリアの強化魔法を施されたその存在は、もはや「魔物」の域を超え、生ける災厄と化していた
第90話全面戦争
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兵たちが恐怖に後ずさる中、ただ一匹の獣がその巨体の前に立ちはだかる。
聖獣フェンリル。
「……二千年前の失態を、繰り返すわけにはいかぬ!」
咆哮が大気を震わせ、戦場に轟いた。
次の瞬間、巨獣と聖獣が激突する。
衝撃で周囲の兵も魔物も吹き飛ばされ、まるで神話の一幕が再現されるかのようであった。
■劣勢と記憶
しかし、戦いは苛烈を極めた。
鋼鉄の如き巨腕が振るわれ、フェンリルは幾度も大地に叩きつけられる。
立ち上がるたびに傷は深まり、血が大地を濡らした。
「ぐっ……まだ……終わって……ない……!」
朦朧とする意識の中で、フェンリルの脳裏に過去の記憶が蘇る。
――「またフェンリルが失敗したらしいぜ。魔王の四天王って看板倒れか?」
――「弱いくせに、よく隣にいられるな」
嘲笑が耳に焼き付き、胸を締め付ける。
失敗を重ね、地に落ちた評判。
それでも、ただ一人だけは――魔王グランだけは言ってくれた。
『大丈夫だ。気にするな』
その言葉が、何度も彼を立ち上がらせてきた。
■仲間の声、そして進化
「こんな所で……負けてたまるか……! 動け……俺の体……!」
必死に吠えるフェンリルの頭の中に、突然声が響いた。
――「そうだよ。僕たち、みんなでフェンリルなんだ」
――「大丈夫だ。俺たちがついてる」
それは、かつて共に戦った仲間たちの声。
すでに失われたはずの魂が、彼の背を押していた。
その瞬間、まばゆい光がフェンリルを包み込む。
毛並みは銀に輝き、瞳は黄金に燃え、身体は神々しい威厳を帯びて変貌していく。
――神獣フェンリル。
伝承にすら語られることのなかった、新たな姿がそこにあった。
■決着
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
天地を揺るがす咆哮と共に、神獣フェンリルが最後の一撃を解き放つ。
全身を駆け巡る力が牙へと収束し、閃光の如き一撃がベヒーモスの巨体を貫いた。
轟音。
血煙。
巨獣は断末魔を上げ、地を揺るがして崩れ落ちた。
勝利の瞬間、フェンリルの身体から光が消え、元の聖獣の姿へと戻っていく。
しかし、その体は限界を超え、力尽きて地に伏した。
「フェンリルっ!」
兵たちが駆け寄り、彼を救護室へと運び出す。
戦場は一瞬、静寂に包まれた。
兵士たちは誰も言葉を発せず、ただその背中を見送るしかなかった。
だが、その沈黙は恐怖ではなく――確かな敬意と畏怖の証であった。




