第96話 ひかりの過去と、再会の真実
ひかりは、生まれてすぐに赤ちゃんポストへ預けられた――。
その事実を知ったのは、少し大きくなってからだった。
物心ついた頃には、施設での生活が当たり前になっていた。
けれど、心のどこかに「自分だけが違う」という感覚を抱え、周囲の子どもたちとうまく馴染めず、言葉数も少ないまま、ただ日々をやり過ごしていた。
■出会い
そんなある日。
施設を訪れた一人の少年が、彼女の世界を変えることになる。
名前は蓮。
明るくて、よく笑い、誰とでもすぐに打ち解ける不思議な少年だった。
最初は鬱陶しいとさえ思った。
「無理に話しかけないで」と心の中で呟いたこともあった。
けれど、蓮はどんな時も変わらず笑顔でひかりに声をかけ続けた。
「ひかり、今日は一緒に遊ぼう?」
「また今度って言ったでしょ……」
「じゃあ、今度って今日ってことで!」
そんな調子で、彼はまっすぐにひかりの心へ踏み込んでいった。
気がつけば、朝の挨拶、給食の時間、帰りの支度――そのすべてに蓮がいた。
彼の存在は、ひかりの日常の一部となっていた。
そしていつしか、ひかりはその優しさに惹かれていた。
はじめて「誰かを好きになる」という感情を知ったのだ。
蓮の笑顔が、凍りついたひかりの心を溶かしていった。
■別れ
だが――運命は残酷だった。
ある日、ひかりは大人の男たちに囲まれた。
恐怖に震える彼女を救ったのは、ほかでもない蓮だった。
彼は怒りと決意に燃える瞳で男たちを追い払った。
「もう大丈夫だよ、ひかり」
その言葉に、ひかりははじめて安心して泣いた。
――だが、それが最後だった。
その日を境に、蓮は施設から姿を消した。
何も告げず、どこにもいなくなった。
まるで最初から存在しなかったかのように。
残されたのは、あのぬくもりと記憶だけ。
ひかりは再びひとりに戻った。
「人間じゃない力がある」と噂され、周囲から避けられ、男たちに目をつけられ、いじめられた。
学校でも施設でも、孤独が日常となっていった。
それでも、彼女は蓮を探し続けた。
「どこかで生きている」と信じ、街を歩き、記憶を辿った。
――けれど、見つからなかった。
■再会
ある日、不思議な声が耳に届いた。
――ひかり。
名前を呼ばれた気がした。
胸が熱くなり、涙が零れる。
そして目を開けた時、ひかりは見知らぬ場所に立っていた。
「……ここは、どこ?」
顔を上げると、そこには懐かしい姿があった。
「ひかり……よく来てくれた」
蓮がいた。
涙が堰を切ったように溢れ、ひかりは思わず駆け寄って抱きついた。
「蓮っ! 会いたかった……ずっと……ずっと、探してた……!」
しばらくして落ち着いた後、蓮は真剣な表情で語り始めた。
「俺は――二千年前、この世界に召喚されて魔王を倒した。
でも、それで終わりじゃなかった。
日本に戻る手段を探し続けたけど、見つからなかった……。
だけど今、転生した魔王グランと出会い、仲間になって……やっと君を呼べたんだ。
これから戦争が起きる。世界の命運がかかる戦いだ。
でも俺は――君を守るためにここに呼んだ。もう二度と、離さない」
ひかりは黙って彼を見つめ、そして静かに、はっきりと言った。
「ありがとう、蓮……。どんな世界でも……私は、あなたと一緒にいたい」
その想いは揺るぎなく、温かく響いた。
誰もまだ知らない。
この少女こそが、これから始まる戦いの「要」となることを――。




