第94話 決意と運命の声
静寂が満ちる作戦室。
集まった仲間たちの視線を一身に受け、グランはゆっくりと語り始めた。
「……俺は夢を見た。二千年前の最後の戦い。セレナとフェンリルを封印したときの夢だ。
そのとき、誰かに囁かれた。――『大丈夫、あなたはこの世界に大きな転機をもたらす運命なのだから』と。
その声は……ひかりに似ていた」
重苦しい沈黙が落ちる。
仲間たちは息を呑み、視線を落とす。
蓮がわずかに声を震わせ、口を開いた。
「ひかりが……やっぱり、運命はそこに繋がっているのか……」
誰もが言葉を失う中、ただ一人、セレナだけが真っ直ぐにグランを見つめていた。
涙をこらえるように唇を噛み、そして問う。
「グラン……本気で、転生魔法を使うつもりなのね?」
グランは静かに目を閉じ、そして迷わず頷いた。
「……ああ」
その答えに、セレナの瞳が潤む。
だが、彼女はふっと微笑んだ。
「やっぱり……グランだね」
そして彼女は、昨日フェンリルと共に訪れた湖畔の遺跡での出来事を語った。
湖が引き、封印の地が姿を現し、あの時と同じ囁きが耳に届いたことを。
「……二千年前も、今も。あなたはずっと、民と仲間のために動いてきた。変わらないんだね」
その言葉に、仲間たちは胸の奥に広がる痛みに耐えながらも、次第にうなずき始める。
こはるは強く拳を握りしめ、ナツは固く唇を結んだ。
ユエは涙を拭い、シスは目を伏せる。
フェンリルは深く頭を垂れ、その決意を受け入れるように沈黙した。
誰一人、納得したわけではなかった。
だが――グランの決意と、それを後押しする“運命の声”を否定できる者もいなかった。
そして――戦争の始まりを告げる二週間前。
世界に新たな命として、“ひかり”が転生を果たしたのであった。




