第90話 リベルノア王国・イーストランド連盟会議
戦いから数日後。
重苦しい空気が漂う会議室に、リベルノア王国の国王とイーストランド国王、そしてグランが揃っていた。
「……では、剣聖の国と四季連合国に、こちらから通達を送るのだな?」
イーストランド国王の問いに、グランは力強く頷く。
「はい。ただし――内容は無理難題です。相手がすぐに飲めない条件を突きつけ、返答までの三ヶ月を稼ぎます」
リベルノア国王が淡々と条件を読み上げる。
戦争の賠償金として各国予算の半分を支払うこと
戦争兵器の八割を没収すること
軍の解体を要求すること
「……ふん、こんな条件を素直に受け入れる国などあるまい」
イーストランド国王は苦笑する。だが、その言葉には狙いを理解した確信が込められていた。
■グランの説明
「時間が必要なんです。負傷兵の回復、軍の再編成、物資の補給……そして、平民の避難と安全確保。
現勇者パーティーの戦力を考えれば、こちらも兵士一人ひとりを鍛え直さなくてはならない。三ヶ月……最低でもそれだけは稼がないと」
その声には焦燥と覚悟が入り混じっていた。
二人の王も黙って頷き、三者の意見は一致する。
こうして、手紙の文面は完成し、剣聖の国と四季連合国へ送られることとなった。
■敵国の反応
剣聖の国の城内。
家臣が手紙を読み上げると、その場の空気が凍り付いた。
「……賠償金、予算半分? 兵器八割没収? 軍の解体だと……!」
国王は苛立ちを隠さず、玉座の肘掛けを強く握りしめる。
歯ぎしりの音すら聞こえそうなほどだった。
一方、四季連合国の会議室では、処刑された勇者パーティーの件が重くのしかかり、将軍たちの士気は落ち込んでいた。
怒りよりも諦めに近い空気が広がり、重苦しい沈黙が支配する。
「……無茶だ。だが、返答まで三ヶ月……せめてその間に何とか立て直さねば」
誰かのかすれた声が響くが、それに応じる気力を持つ者はほとんどいなかった。
■蓮の胸の内
同じ夜。
蓮は城のバルコニーで夜空を見上げていた。
(……この三ヶ月のうちに、必ず“ひかり”をこの世界に呼び寄せる)
理由はただ一つ。
もし次の戦いで自分が命を落とせば、二度と彼女に会えなくなる。
そして、あの世界で彼女がまた孤立する姿を、決して見たくなかった。
(セレナ、こはる、クレア王女……きっと彼女の良い友になってくれるはずだ)
拳を握りしめ、蓮は誓う。
戦争の準備は続く。だがその裏で、彼にはもう一つの“守りたいもの”があった。




