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第87話 イーストランド南部 ― 勇者パーティー対サンライズ

イーストランド南部の荒野。

赤茶けた大地を隔て、二つのパーティーが静かに相対していた。

一方は現勇者パーティー――勇者ゴーズ、タンクのザガ、魔道士アリア、聖女エノ。

彼らの背後には、四季連合国と勇者の国が与えた権威と、腐敗の象徴が渦巻いている。

もう一方は、勇者の末裔たちが結成したSランクパーティー《サンライズ》。

その瞳には迷いはなく、ただ“本当の使命”を果たすための炎が宿っていた。

荒野を渡る風が、張り詰めた弦のような緊張を震わせる。

――次の瞬間。

砂塵を巻き上げ、一瞬の刹那。勇者とその末裔たちが同時に踏み込み、刃を交えた。

火花が散り、金属が弾ける甲高い音が荒野に響き渡る。

そこから、激烈なパーティー戦が幕を開けた。

剣戟が雷鳴のように轟き、魔法が嵐のように交錯する。

爆炎が大地を焦がし、衝撃波が岩を砕いた。

それはまさに、“英雄”と“その末裔”がぶつかり合う世界の縮図だった。


■攻防

「はああああっ!!」

末裔勇者が剣を振り下ろし、ゴーズがそれを大剣で受け止める。

金属の軋む音が大気を震わせ、互いの視線が火花を散らす。

「俺は“選ばれた存在”だ! 平民の血を引く貴様らに負けるはずがない!」

ゴーズの傲慢な叫びが響く。

「選ばれた? 違う! 俺たちは託されたんだ! 本当の勇者の意志を――!」

末裔勇者の剣に、信念の輝きが宿る。

後方では、アリアの魔力が膨れ上がり、業火の竜が荒野を覆い尽くす。

だがそれを、リオルが展開した氷の障壁が正面から打ち砕いた。

「灰になるのはお前の方だ!」

アリアの嘲笑を、リオルの冷静な声がかき消す。

一方、ザガの巨大な盾が轟音を立てて振り下ろされる。

「守る? 笑わせるな。俺が守るのは自分だけだ!」

だが、その盾は末裔タンクのベンによって正面から受け止められた。

「盾は仲間を守るためにある! お前みたいな男に、その資格はない!」

エノが聖魔法を唱え、眩い光を放つ。

「祈ってほしい? なら跪いて奉仕なさい!」

その光は敵を癒やすどころか、民を弄んできた歪んだ“加護”だった。

だが、末裔聖女アキが両手を掲げ、純白の祈りを紡ぐ。

「癒しは見返りのためじゃない……! 命を守るためにあるの!」

二つの光がぶつかり合い、夜を裂く閃光が戦場を包み込んだ。


■逆転

当初は互角だった戦況は、次第にサンライズが押し始めていた。

「このまま押し切る!」

末裔勇者が叫び、仲間たちが応じる。

だがその瞬間――。

現勇者パーティーの身体が眩い光に包まれた。

勇者、タンク、魔道士、聖女。

それぞれに宿る“加護”が発動し、さらにミリアが遠方から施した強化魔法が重なっていく。

「これで終わりだぁっ!」

勇者ゴーズが咆哮し、光の剣を振り下ろす。

光と共に形勢は一気に逆転。

サンライズは防戦一方へと追い込まれた。

炎が迫り、盾が叩きつけられ、光の鞭が空を裂く。

足元の大地が抉れ、砂塵と血が舞った。


■覚醒

だがその窮地の中、サンライズの胸の奥で――何かが震えた。

(……俺たちは、なぜ戦う?)

その問いに答えるように、脳裏に流れ込んでくる記憶。

二千年前、初代勇者パーティーが築き、そして去っていった真実の記憶。

国を興したのは確かに彼らだった。だが、彼らは本来“冒険者”であり、政治家ではなかった。

旅に出た間に国は腐敗し、信仰と権力が人を縛った。

――それを正せなかったこと。

――民を救えなかったこと。

その後悔は、血脈と共に子孫へ受け継がれていた。

サンライズの全員が瞳を見開く。

背後に、淡く光る初代勇者パーティーの幻影が立ち上った。

「俺たちが……本当に果たすべき使命を!」

「逃げたままじゃ、あの人たちも浮かばれない!」

全身を包む力が爆発的に高まり、サンライズは一気に反撃へ転じた。

剣撃は雷鳴の如く。

魔法は嵐の如く。

その姿はまるで、二千年前の勇者たちが憑依したかのようだった。


■決着

勇者ゴーズの剣が振り下ろされる。

だがそれを末裔勇者が受け止め、逆に弾き飛ばす。

「ぐっ……! ありえねぇ!」

アリアの炎をリオルが氷で封じ、エノの光をアキが祈りで打ち消す。

ザガの盾は、ベンの拳によって粉々に砕かれた。

激闘の果て、現勇者パーティーは次々と武器を弾き飛ばされ、魔法を封じられ、荒野に崩れ落ちていく。

「終わりだ……!」

末裔勇者が息を荒げながら剣を突きつけた。

拘束魔法が発動し、現勇者パーティーは完全に無力化された。


■二千年前の想い

その瞬間、幻影の中の初代勇者が静かに口を開いた。

『……私たちは、あの時立ち向かわなかったことを後悔している。

 本当にすまない。だが今こうして……お前たちが果たしてくれた。ありがとう』

サンライズは静かに頷く。

幻影の勇者たちは安堵の笑みを浮かべ、光の粒となって空へと消えていった。


■終焉

その後――捕らえられた現勇者パーティーはリベルノア王国へ移送され、民衆の前で公開処刑に処された。

長く続いた「勇者」という名を冠した暴虐は、こうして終止符を打たれたのである。


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