表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/95

第85話 魔族会議 ― ミリアの報告

魔王国・城の作戦室。

長机を囲むのは、魔族の代表たち。重苦しい沈黙の中、グランが口を開いた。

「……戦場に現れたのは、間違いなくミリアだった」

その名が告げられると同時に、場の空気が揺らぐ。

「……信じられん。ミリア様が、生きていたとは」

最初に声を上げたのは、長老ギルドラス。普段は冷静な彼の声音に、動揺が滲んでいた。

「二千年前の戦で……確かに死んだと伝えられていたはずだ」

アンデッドの長が唸るように呟く。

「封印されたのか? だが、セレナ様にそこまでの力は……」

若きレイス族の魔導が首をかしげ、答えを探す。

「……でも、あの力、あの執念。間違いなくミリア様だった」

妖精族の使者もまた、言葉を飲み込みながら絞り出した。

グランは静かに頷く。

「確かに、あれはミリアだった。……だが彼女は“あの人”につき、我らに牙を向けた」

「なぜだ……?」

誰かの呟きに、誰も答えられなかった。


■誰にも知られなかった想い ― ミリアの記憶

誰も知らなかった。

ミリアの胸に、どれほど強い想いが宿っていたのかを。

(私は……グラン様を、愛していた)

ただの忠臣として仕えていたと見られていた。

だが彼女の心は、いつも主を求めていた。

(“四天王”としての立場がある。……想いを告げてはならない。だから――力で示すしかなかった)

いつも傍にいたのは、セレナ。

(グラン様の隣には、いつも彼女がいた)

羨望と嫉妬。

それでも、信じていた。

(いずれは選ばれると……そう信じて、私は戦った)

剣聖との激戦。命を懸けて撃退したその時も――

(褒めてほしかった。認めてほしかった)

だが、訪れたのは絶望だった。

(封印されたのは……私ではなく、セレナ?)

真実を知った瞬間、すべてが崩れた。

自分は選ばれなかった。

置き去りにされた。

誰も、想いに気づいてはくれなかった。

(私は……ただの、道具だったの?)

やがてミリアは姿を消す。

二千年の沈黙の果てに、狂気を纏った姿で再び現れたのだった。


■会議室 ― 沈黙のあと

「……我らの過ちだ」

「彼女の想いに、誰も気づけなかった」

誰かの言葉に、別の声が重なる。

「いや……彼女自身が隠していたのだろう。だが、その苦しみが……二千年かけて、形を歪めたのだ」

ギルドラスが重く首を振った。

「止めねばならぬ。……今度こそ」

その場に異を唱える者は、一人もいなかった。

「……あいつは、俺の言葉にも耳を貸さなかった」

グランは拳を握りしめる。

「セレナに封印されたと信じ込んでいる。だが、セレナにはそんな力はなかった」

セレナがそっと隣に立ち、静かに口を開く。

「……ミリアさんは、ずっと一人だったのね。誰にも頼らず、想いを抱え込んで……」

グランの瞳に決意の光が宿る。

「……もう二度と、孤独にはさせない。敵でも仲間でもなく――ミリアは、俺が決着をつける」

作戦室に沈黙が落ちた。

それは重苦しくも、確かな決意を共有する沈黙だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ